在宅医療薬剤師の仕事内容と役割は?薬局の現状の大変さも詳しく解説!

高齢化の進む日本において、在宅医療および在宅薬剤師の必要性は年々高まっています。

しかし、在宅薬剤師として働く環境は未整備であることが多く、薬局・薬剤師への負担が大きいのが現状です。

この記事では、在宅薬剤師の具体的な仕事内容から、在宅薬剤師以外のキャリアについても紹介します。

この記事を読むことで、薬剤師としてどんなキャリアの可能性があるのかわかるようになります。

在宅薬剤師としての今後のキャリアを検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。

編集部
編集部

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この記事を監修した人

薬剤師歴10年。門前薬局・在宅医療・施設在宅に従事し、管理薬剤師として勤務。
抗がん剤・糖尿病・精神科などハイリスク処方を多数応需し、約1万人以上の患者カウンセリングを実施。
医療・健康分野のライター・カウンセラーとしても活動。 医療・サプリ・健康関連の記事を執筆中。
「専門知識をわかりやすく伝える」をモットーに、医療と生活の架け橋となる活動を続けている。

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在宅医療薬剤師とは?

在宅医療薬剤師とは?
患者の自宅や施設を訪問し、薬の管理や服薬指導を行う薬剤師

在宅医療薬剤師は、自宅や施設で療養する患者さんに対して、薬剤師が患者宅へ訪問し適切な薬物療法や服薬指導を提供する仕事です。具体的には下記のような仕事があります。

  • 薬の配達
  • ポリファーマシーのリスクのチェック
  • 残薬管理
  • 服薬指導
  • 医療チームとの連携

患者さんや家族の不安を解消し、より安心して治療を受けられるよう、医師や看護師と連携してチームでのサポートを行います。

また、患者さんの状態に合わせた薬の管理や副作用のモニタリングも重要な役割の一つです。

在宅医療薬剤師は、患者さんの治療過程において、日々変動する病状や様々な薬物の使用方法を確認し、適切な判断が求められる職種であり、コミュニケーション能力も不可欠です。

在宅医療薬剤師の6つの仕事内容

在宅医療薬剤師の仕事内容は主に以下の6つです。

在宅医療薬剤師の仕事内容
  • 患者さんの自宅や施設に薬を届ける
  • 患者さんの薬の飲み合わせを確認する
  • 訪問先の残薬を管理する
  • 訪問先で患者さんに服薬指導を行う
  • 医療・福祉関係者との連携・情報共有を行う
  • その他の業務(服薬支援など)

①患者さんの自宅や施設に薬を届ける

在宅医療薬剤師は、患者さんが自宅で療養している場合や施設に入居している場合に、患者さんが通院する負担を軽減するため、薬を届けます。

薬を届ける際の移動は、一般的には車移動が多いです。特に田舎では車移動が必須になります。訪問先が遠く広範囲にわたることや、一度に多くの薬を運ぶためです。逆に都市部では、徒歩や自転車、電車・バスといったケースもあります。

②患者さんの薬の飲み合わせを確認する

在宅医療薬剤師は、患者さんが複数の薬を服用する場合に、薬の飲み合わせや相互作用に注意してチェックを行います。

患者さんが服用している市販薬サプリメント食品との相互作用も確認し、悪影響を与える可能性がある場合は医師や看護師と連携して対応を行います。

また、ヒアリングや患者さんの手帳を確認し、適切な服用方法や注意点を指導することで、患者さんの安心感を高めます。

③訪問先の残薬を管理する

訪問先で患者さんの自宅にある残薬を管理することも、在宅薬剤師の重要な仕事のひとつです。

在宅患者の中には薬の残数を把握していない患者さんも多くいます。残薬の管理ができていないことで、飲み忘れや重複服用のリスクも高まります。

適切な量の残薬を管理することで、リスクを低下させることも在宅薬剤師の役割です。また、患者さんの状況に応じて医師に薬の変更や服用回数の減少を提案することもあります。

大量の薬を持っている高齢の患者さんにとっては、残薬の管理は節約や誤服用の恐れを減らす大きな助けにもなります。

④訪問先で患者さんに服薬指導を行う

訪問先で患者さんに薬をお渡しし、正しく薬を服用する方法や情報を伝えることは在宅薬剤師の基本的な仕事の一つです。

服用時間、服用回数、服用量などの基本情報保管方法、注意点、副作用、飲み合わせなどを患者さんやご家族に説明し、必要に応じて変更や追加情報を提供します。

また、患者さんの不安や悩みを聞くことも服薬指導の一環です。

疑問や健康に関する相談に耳を傾け、適切なアドバイスも行います。

⑤医療・福祉関係者との連携・情報共有を行う

在宅医療のチームで働く薬剤師は、医師や介護職、看護師などと緊密に連携し、患者さんに提供する医療・福祉の質を高めるために情報共有が重要です。

互いの担当する業務や患者さんの状況について報告し合い、薬の副作用や併用時の注意、療養に関する相談などを速やかに対応します。

さらに、薬剤師は福祉関係者や本人の在宅療養の状況を確認し、適切な提案や変更が必要な場合に医師と相談することで、患者さんの在宅療養がより安心で快適になることを目指します。

在宅薬剤師のその他の業務(服薬支援)

在宅医療では、特に認知症や嚥下障害のある患者さんに対する服薬支援が重要です。

服薬支援には様々な方法がありますが、例えば以下のような工夫を行います。

  • 粉砕・一包化・剤形変更など、患者さんの状態に合わせて調剤する
  • 誤薬防止のため、朝は青、昼は黄色、夕は赤など色分けしてセット
  • 一包化できない薬(例:アスパラギン酸カリウム錠)はPTPをばらして外付けし、ホチキスでまとめる

このほか、他院との薬を合わせて一包化したりお薬カレンダーやお薬ボックスへのセットなども含まれます。

このように、様々な方法で服薬支援の工夫をすることで、誤薬防止やアドヒアランス向上に繋がります。

在宅医療薬剤師の現場の実情

在宅医療薬剤師の現場では、実は多くの課題があります。

  • 訪問の移動時間で業務が圧迫される
  • 悪天候時の施設訪問は結構な肉体労働になる
  • 患者さんが薬を自己判断で服用し、申告してくれない
  • 施設在宅では薬剤情報手帳の確認作業が膨大
  • 他院から処方された薬の把握が困難
  • 残薬の確認・整理に時間がかかる
  • 他職との情報共有が大変
  • 服薬支援のセットに神経を使う

在宅医療薬剤師の仕事は、薬物治療の最適化にとどまらず、患者さんの生活全体を支える役割を果たすため、通常の薬剤師業務とは異なる性格があります。

在宅医療薬剤師をする上では、現場の実態も理解しておきましょう。

薬の配達に関わる実情

訪問先が遠い場合、移動に多くの時間を費やします。特に田舎では車移動が必須。薬局の方針にもよりますが、移動は業務時間に含まれないケースも多いです。そのため、移動時間中は業務が進められず、業務が圧迫されます。

また、悪天候の日は大変で結構な肉体労働になります。施設訪問では薬が多いので、荷台にお薬BOXを積み、雨で薬が濡れないように、大きなビニール袋をかぶせて車から運ぶなど、意外と重労働です。

このほか、冬場の積雪や路面凍結がある場合には、事故リスクも伴います。

監修者 薬剤師父ちゃん
監修者 薬剤師父ちゃん

施設在宅では、大きなお薬BOXや重い栄養剤を運び、エレベーターで各部屋を回るため、身体的負担が大きいです。帰路の運転はいつも疲労困憊でした。

薬の飲み合わせ確認に関わる実情

薬の飲み合わせの確認にも、多くの課題があります。

患者さんが市販薬やサプリメントを自己判断で服用し、申告してくれないケースや、他院から処方された薬の把握が困難であることも少なくありません。

また、施設在宅では薬剤情報手帳の確認作業が膨大で、一人ひとりの薬を網羅的にチェックするのが難しいといった実情もあります。

特に高齢の患者さんは「この薬が効いているかどうかわからない」と言いながら何年も飲み続けているケースが多く、ポリファーマシーの宝庫です。

監修者 薬剤師父ちゃん
監修者 薬剤師父ちゃん

外来では算定が難しいと言われる服用薬剤調整支援料なども、あっさり算定できることがありました。

残薬管理に関わる実情

一見、負荷の小さそうな残薬の管理の業務も、実は大きな負担になることがあります。

  • 患者さん自身が薬の保管場所を把握しておらず、探索に時間がかかる
  • 服薬していない薬が大量に残り、整理に時間がかかる
  • 「もったいない」という意識から、処方調整に抵抗を示す患者さんも多い

このような状況のため、初回訪問時は何時間もかかることもあります。

監修者 薬剤師父ちゃん
監修者 薬剤師父ちゃん

患者さんの家には「いつの薬かわからないもの」が山ほど眠っていることが多いです。「適切な治療のために必要な整理」と伝えると、処方調整に納得してくれる方も増えます。

医療・福祉関係者との連携・情報共有に関わる実情

在宅医療では、医師・看護師・ケアマネージャー・訪問介護職などとの密接な連携が不可欠ですが、この情報共有でも課題があります。

  • 他職種との情報共有のタイミングが合わないことがある
  • 医師ごとに重視する連絡手段が異なり、多くの在宅患者を担当すると混乱しやすい

連携の手段は、電話、報告書、トレーシングレポート、医療クラウドなど、さまざまです。医療機関ごとにスタイルが全く異なり、多くの媒体で頻繁に情報共有を行うため、慣れるまでは薬剤師の負担も大きいのが実情です。

監修者 薬剤師父ちゃん
監修者 薬剤師父ちゃん

最も難易度が高い連携業務が往診同行です。医師に質問されることも多く、薬学的知識はもちろん、コミュニケーション能力や迅速な判断力などが求められます。

服薬支援に関わる実情

認知症の患者さんや嚥下障害のある患者さんに対する服薬支援は、非常に注意を要する業務です。

在宅業務における服薬支援は、以下のように薬剤師とスタッフで分担するケースもあり、②の配達前の事前準備では細心の注意が必要になります。

  • 調剤〜鑑査(薬剤師業務)
  • 配達前の事前準備(スタッフが対応し薬剤師がチェック
  • 配薬(スタッフが対応)

薬のセットは誤薬・誤飲の無いよう十分に注意して行う必要がある上に、セットを非薬剤師で業務分担するケースのチェックは相応の負担がかかります。

なお、チェックの具体的内容は以下のような確認作業を含みます。

  • 朝・昼・夕の色分けが正しいか
  • 外付けの薬が漏れなくついているか
  • 同姓の別の患者さんのボックスに誤って入っていないか
  • 各患者さんごとのルールに沿っているか(例:寝る前と夕食後の薬をまとめる、など)
監修者 薬剤師父ちゃん
監修者 薬剤師父ちゃん

個人在宅が数件程度ならよいのですが、施設在宅となると、患者さんや、施設毎にルールが異なるので、とても神経を使う作業です。

在宅医療薬剤師の社会的ニーズ

高齢化が進む現代社会において、在宅医療薬剤師の役割はますます重要になっています。

患者さんの自宅での療養をサポートすることで、病院での治療だけではなく、地域に密着した医療の提供が可能となります。

また、医療と福祉の連携が求められる中で、在宅医療薬剤師は多職種と連携し、患者さんに適切な医療・ケアを提供することで、地域社会への貢献も果たしています。

在宅医療薬剤師の社会的ニーズはこれからも高まり続けると見られているため、在宅薬剤師の必要性について把握しておくことが重要です。

在宅医療の患者数の増加

在宅医療での外来診療患者数は、現在およそ17万3000人に上り、平成17年と比較するとおよそ2.6倍になりました。

これは、過去15年で倍以上に増加していることを示しています。

この増加には、高齢化や少子化などの要因が影響しており、今後も増加し続けると見られています。

参照元: ※1

日本社会の高齢化

現在の日本では、人口のおよそ28.9%が65歳以上と高齢化が進んでおり、今後さらに高齢化が進むことが予想されています。

高齢化が進むことで、在宅医療や介護のニーズが増加し、在宅薬剤師の需要も高まっています。

参照元: ※2※3※4

療養病床の再編(病床の削減)

医療業界では、医療費の効率化および病床数の過剰共有を要因として、療養病床の再編が進行しており、平成5年をピークに病床数が削減されています

これは、人口減少と高齢化による現役世代の医療費負担増加に対応するための再編施策です。

病床数を減らして、患者が自宅で必要なケアを受けることが国から求められており、在宅医療や介護の重要性が増している状況です。

今後も病床数は削減傾向であり、在宅医療薬剤師の社会的ニーズは高まっていくと見られています。

参照元: ※5

在宅患者の薬の受け取りに関するニーズの増加

在宅患者の中には、外出が難しい方や、自分一人で購入に行けない方が少なくありません。

そんな患者が処方された薬剤を調剤薬局や病院で取りに行くことが難しい場合があるため、在宅患者の薬の受け取りに関するニーズも高まっています。

在宅医療薬剤師の現状と課題

日本では医療制度の発展とともに在宅医療のニーズが拡大し、薬剤師が果たす役割の重要性が高まっていますが、在宅薬剤師が活躍できる環境はまだ整っていないのが実情です。

例えば、在宅患者訪問薬剤管理指導の実施率の低さ薬剤師不足休日・夜間対応の体制が整っていないことなどが挙げられます。

ここでは、各課題の具体的な内容について解説します。

在宅患者訪問薬剤管理指導の実施率

日本薬剤師会によると、在宅患者への訪問薬剤管理指導の実施率は低いままです。

平成28年時点で訪問薬剤管理指導届出を出している薬局は82%ですが、訪問薬剤管理指導を実際に実施している薬局は医療保険で5,157薬局(11%)、介護保険で16,204薬局(33%)のみとなっています。

実は、この届出数と実施数に乖離がみられるのには原因があります。

それは、薬剤師の少ない小規模な薬局では、患者宅へ訪問することが薬剤師の大きな負担となり、開局時間内に患者宅に訪問することが難しいからです。

また、訪問時には薬局内の業務を進めることができず、訪問薬剤管理指導後に局内の業務をこなすことになるため、薬剤師の長時間勤務につながりやすいことも要因のひとつと言えます。

在宅医療薬剤師の不足

近年、在宅医療のニーズは高まっていますが、在宅医療に対応できる薬剤師は不足しています。

状況にもよりますが、在宅医療は長時間の運転、重い荷物を運ぶ、夜間や緊急時の対応、場合によっては施設からのクレームなどもあり、タフさが求められる仕事です。

薬局・薬剤師にかかる負担も大きく、小規模な薬局や地域によっては在宅医療に対応できないケースが増えています。

この問題を解消するためには、在宅医療薬剤師および薬局の負担を減らすための仕組み整備や補助、在宅医療薬剤師の育成が不可欠です。

監修者 薬剤師父ちゃん
監修者 薬剤師父ちゃん

離脱する薬剤師は私の周りにも多かったです。

休日・夜間対応の体制が整っていない

在宅医療の休日・夜間対応は、小規模な薬局にとって大きな問題となっています。

特に早朝や閉局後の対応は、薬剤師の負担も大きく、効率的な業務を実施するには人数や勤務体制が十分ではありません。

現状では、在宅医療に深く関わりたい薬剤師(特に地方の薬剤師)が不足しており、休日や夜間に随時対応できる体制が整っていないことが、在宅医療の壁となっています。

無菌調剤設備がなく対応できない

無菌調剤とは、細菌やカビなどの環境汚染物質を遮断し、無菌状態を維持して調剤を行うことです。これは主に抗がん剤や内用注射剤など、感染リスクが高い薬剤に対して必要とされます。

現時点では無菌調剤を応需する機会はあまり多くありません。しかし、無菌調剤の処方が来た場合には、無菌調剤設備がない薬局では対応ができないため、患者さんに別の薬局を紹介する必要があります。

無菌調剤設備の設置は、在宅薬学総合体制加算2の新設により進んでいるものの、初期コストや施設基準のハードルが高いため、普及率はまだ十分とは言えません。

監修者 薬剤師父ちゃん
監修者 薬剤師父ちゃん

この加算を算定するには、地域に無菌調剤の応需が可能である旨を周辺地域に周知することになっているのですが、実質病院側の認識もまだ不十分だと思います。

在宅医療薬剤師に求められる3つの役割

在宅医療薬剤師には、以下の3つの役割が求められます。

  • 薬剤管理
  • 服薬指導
  • 患者さんとの信頼関係

薬剤管理(薬剤の保管状況の管理)

在宅医療薬剤師は、患者さんの自宅で薬剤の保管状況を管理する必要があります。

これには、薬剤の置き場所や温度管理、湿度管理、使用期限の確認などが含まれます。

適切な保管状況を維持することで、薬剤の品質を保ち、患者さんに正しい効果を発揮させることができます。これにより、患者さんの健康状態の改善や、副作用の低減にも繋がります。

監修者 薬剤師父ちゃん
監修者 薬剤師父ちゃん

施設在宅の場合は、日常的な薬剤管理は施設職員に委託し、薬剤師は定期的なチェックを行うケースが多いです。

服薬指導(薬剤の飲み忘れの防止)

在宅医療薬剤師は、患者さんの薬剤の飲み忘れを防ぐためのサポートが求められます。

具体的には、分かりやすい服薬指導や、服薬カレンダーの作成薬剤の整理方法などを提案することが重要です。特に施設在宅の場合には、服薬BOXの種類(色分けや日付表示)など、施設側が管理しやすい方法を提案することが重要となります。

薬剤の飲み忘れを防ぐことは、患者さんの健康状態を改善し、治療効果を最大限に引き出すために不可欠です。

患者さんとの信頼関係(服用薬剤の理解の促進)

在宅医療薬剤師は、患者さんが服用する薬剤について理解を深め、正しい服薬習慣を促すことが重要です。

薬剤師は患者さんに対し、薬の効果や副作用について説明し、適切な用法用量の指導を行います。また、薬の相互作用や患者さんの健康状態に配慮した薬剤選定の提案も行うことがあります。

また、患者さんや家族とのコミュニケーションを大切にし、信頼関係を築くことで、より適切な服用薬剤の理解が促進されます。

薬剤師と患者さんが密接に連携し、お互いの意見や懸念を共有することで、治療効果が向上し、服薬管理がスムーズに進むとともに、副作用のリスクも低減させることができます。

在宅医療薬剤師に必須の3つのスキル

在宅医療薬剤師として業務を行うためには以下の3つのスキルが必須となります。

  • 医療チームとの連携力
  • 計画性
  • リスク管理能力

施設在宅では、往診や配薬スケジュールをシフトに組み込み、綿密に調整する必要があります。

また、在宅医療では高齢患者が多いため、代謝機能低下やポリファーマシーによる副作用発現リスクが懸念され、腎機能や薬剤の相互作用を適切に判断し、必要に応じて医師に疑義紹介できる知識や判断力も求められます。

医療チームとの連携力

在宅医療は医療チームとのコミュニケーションなしでは成り立ちません。

施設在宅では、薬剤師が患者さんと直接関わる時間は限られており、日常的に患者さんをケアしている看護師やヘルパーとの連携が不可欠です。

介護士やヘルパーは患者さんの食事や排泄、行動変化などを最も近くで見ており、服薬の実態や副作用の兆候を把握できる立場にあります。そのため、薬剤師は単独で業務を進めるのではなく、医療・介護スタッフと協力しながら情報を共有し、適切な薬物療法を提供することが患者さんのQOLを大きく左右します

特に認知症患者の場合、自身の体調変化や副作用を適切に訴えられないため、スタッフからの情報提供が診療の質を左右する重要な要素となります。

計画性

施設在宅の業務は、綿密な計画なくしては成立しません

往診スケジュールに合わせた処方調整や薬剤の準備、施設スタッフへの服薬指導など、事前の準備が必要な業務が多く、スケジュールが崩れると業務全体に影響を及ぼします。

さらに、往診スケジュールが急に変更されたり、処方内容がギリギリで決まったりすることもあるため、柔軟な対応力も求められます

計画性を欠いた状態で業務を進めると、単純に仕事が回らないだけでなく、残業が常態化し、最悪の場合は業務過多によるミスや見落としにつながりかねません。

リスク管理能力

在宅医療薬剤師にとって、リスク管理能力は致命的なミスを防ぐために必須のスキルとなります。

特に施設在宅では、処方のリスク管理も極めて重要です。例えば、

  • 追加するはずだった処方を間違えて別の患者さんに適用してしまう
  • 抗凝固薬や腎機能に影響を及ぼす薬が、患者さんの腎機能を考慮せず処方される
  • まったく主訴と関係ない類似名の薬剤が誤って処方される

施設在宅では、外来ではほとんど見られないような、大きなリスクを孕んだ誤った処方を定期的に応需します。

医師も1日に何十人と往診時しており、似たような処方の方もたくさんいます。場合によっては往診先で処方箋を手書きで直すこともあり、いろいろな要素が複合的に絡んでミスにつながっていきます。

そのため薬剤師は処方監査を徹底し、致命的となる危険な処方を未然に防ぐことが求められるため、リスク管理能力は在宅医療を担う薬剤師にとって必須のスキルとなります。

監修者 薬剤師父ちゃん
監修者 薬剤師父ちゃん

薬剤師の役割は単なる「薬の管理」ではなく、チーム医療の中で調整役として機能し、計画的かつリスクを管理しながら、患者にとって最適な薬物療法を提供することです。

致命的なリスクを回避し、患者の安全を守るために、計画性とチームワーク、そして的確なリスク管理能力が不可欠だといえます。

在宅医療薬剤師で大変な3つのこと

在宅医療薬剤師には、以下のような大変な点が3つあります。

  • 休憩時間を在宅業務にあてることは日常茶飯事
  • 開局時間外や休日の訪問が発生することもある
  • 医師への報告書の作成等の負担が大きい

それぞれについて詳しく見ていきましょう。

①休憩時間を在宅業務にあてることは日常茶飯事

在宅医療では、患者さんの体調や生活状況に応じた柔軟な対応が求められる上、開局時間は調剤業務に追われているため、休憩時間に訪問せざるを得ないことが多くあります。

そのため、休憩も取れずに終日業務にあたらなくてはならないケースもあり、在宅薬剤師にとっては大きな負担です。

②開局時間外や休日の訪問が発生することもある

すべての在宅薬剤師が頻繁に対応するわけではありませんが、開局時間外や休日に訪問が発生することもあります

開局時間外や休日の訪問は主に緊急対応時で、医師の訪問診療での点滴などで対応しきれない場合に発生します。

多くはありませんが、薬剤師の自由な時間が少なくなり、プライベートや家族との時間が犠牲になることも在宅薬剤師の大きな負担です。

監修者 薬剤師父ちゃん
監修者 薬剤師父ちゃん

在宅医療専門の薬局では、夜間・休日対応をシフト制で分担することで負担を軽減しているケースもありますね。

③医師への報告書の作成等の負担が大きい

在宅医療の薬剤師は、訪問先で得た情報や状況を訪問ごとに医師に報告する必要があります。そのため、通常の調剤業務に加え、報告書の作成や、医師との打ち合わせなども行うことになります。

この医師への報告は患者さんの状況を的確に伝えるために、詳細で正確な報告書が求められる上、医師との連絡や打ち合わせも関係者のスケジュールの都合で開局時間外で行うケースも多いのが実情です。

報告書作成は時間を要す上に、診療報酬とのバランスを考えると業務負担が大きいです。

編集部
編集部

中には、在宅薬剤師をやりたくないと考える薬剤師もいます。

より在宅薬剤師の実態を知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみてください。

薬剤師が在宅をやりたくない8つの理由!大変できついときはどうする?

在宅医療薬剤師のキャリアパスとメリット

在宅医療薬剤師は、地域の患者や医療チームと連携し、在宅療養者の薬物療法を支援する専門職です。

キャリアパスとしては、在宅医療の専門知識を身につけ、認定薬剤師の資格を取得することで、専門性を高めることができます。

メリットとして、将来的にもニーズの高いキャリア人材になれることがあります。

また、在宅薬剤師でキャリアを積むことは、他の薬剤師との差別化が図れるため、キャリアアップにも繋がります。

これからの在宅医療の発展と働き方の変化

高齢化社会が進む中で、在宅医療の需要はますます拡大していくでしょう。

そのため、在宅医療薬剤師の働き方も変化が見込まれます。例えば、オンラインでの相談や研修が増えることで、働く環境がより柔軟になるでしょう。

また、看護師や介護士と連携し、チーム医療が進むことで、薬剤師の役割がより重要視される傾向にあります。

家族や地域とのつながりを深める仕事

在宅医療薬剤師は、患者やその家族、地域とのつながりを深める重要な役割を担っています。

訪問薬剤師として、患者の自宅を訪問して薬物療法の指導や健康状態の確認を行い、家族や地域との信頼関係を築きます。

そのため、コミュニケーション能力や地域に根ざした活動が求められる職種となります。

在宅医療薬剤師以外の薬剤師のキャリア

在宅医療薬剤師以外のキャリアパスとしては以下のような選択肢があります。

  • 総合病院に隣接した調剤薬局
  • 製薬会社や医薬品卸企業
  • 調剤併設のドラッグストア
  • パート・派遣薬剤師

各職種によって、働き方や専門知識・スキルが異なるため、下記の内容を読んで自分に適したキャリアを検討してみましょう。

①総合病院に隣接した調剤薬局

総合病院に隣接した調剤薬局では、在宅業務が少ない薬局も比較的多くあります。

なぜなら、総合病院の門前薬局では在宅業務に割けるリソースが限られるためです。総合病院の門前薬局では、高度な専門的処方や長期処方が多く、1時間あたりの処理可能な処方箋枚数が少なくなりやすい傾向があります。その結果、在宅業務を最小限に抑えるケースが少なくありません。

在宅医療ではなく、まずは様々な調剤を経験してスキルアップしていきたいと考える薬剤師さんには向いている調剤薬局と言えるでしょう。

監修者 薬剤師父ちゃん
監修者 薬剤師父ちゃん

診療報酬の関係で在宅対応が求められる場合があるので、「皆無」という薬局は少ないですが、在宅に十分なリソースを割きにくいのは確かです。

②製薬会社や医薬品卸などの企業

製薬会社や医薬品卸などの企業に勤める薬剤師は、新薬の研究・開発・品質管理・薬事など職種は多岐にわたりますが、調剤業務もなく在宅はありません。

また、製薬会社や医薬品卸などの企業に勤める薬剤師は、高年収でワークライフバランスが良いと言われています。残業が少なく、休みも比較的多いため、働きやすい環境が整っています。

企業薬剤師は安定した給与福利厚生が魅力であり、また働く範囲も広がるためキャリアアップのチャンスが多いと言われています。具体的には、品質管理薬事DI職CRAなどの職種があり、未経験でも可能なポジションも存在します。

年収は1000万円を超えるケースもあり、求人の競争率は高いです。

編集部
編集部

未経験から製薬会社に転職は難しいのでは?と感じる人も多いかと思いますが、実は職種によっては未経験でも薬剤師が企業へ転職することは可能です。こちらの記事でも方法を紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。

未経験でも薬剤師が企業へ転職できる?おすすめ5つの職種

③調剤併設型のドラッグストア

調剤併設型のドラッグストアでは、在宅医療を扱う企業は少なく、在宅をやりたくない薬剤師にはメリットがあります。

その代わり、比較的残業も多くなることや、長期休暇の取りやすさが店舗によって差があることはデメリットです。

年収は比較的高く、年収600万円〜700万円ほどになるため、在宅を避けつつ年収を上げたい方はドラッグストアへの転職も候補になるでしょう。

編集部
編集部

各社ドラッグストアの年収は以下の記事が参考になります。

④パート薬剤師や派遣薬剤師

正社員キャリアにこだわらないなら、パートや派遣の薬剤師も選択肢の一つです。職場や働く時間も選べるため、在宅業務を避けて働くことができます。

実はパート薬剤師や派遣薬剤師は時給も高く、厚生労働省の賃金構造基本統計調査では平均時給2,845円で、中には3,500円以上の時給の求人もあります。フルで働けば正社員と同等以上の年収になる場合もあります。

監修者 薬剤師父ちゃん
監修者 薬剤師父ちゃん

パートや派遣は選択の自由度が高いため、在宅を避けることもできることも事実です。在宅をやりたくない薬剤師の選択肢としてはありですね。

パート薬剤師の平均時給を徹底解説!おすすめ職場はココ!ではパート薬剤師の時給を詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。

パート薬剤師の平均時給を徹底解説!おすすめ職場はココ!

まとめ|在宅医療薬剤師の役割は重要だが負担は大きい

在宅医療薬剤師の役割は重要ですが、負担も大きいことを理解した上で、自分に適した働き方を選択することが大切です。

単科医院に近接した調剤薬局や安定期の患者さんが利用する病院、企業など、薬剤師として働く場が多岐にわたります。

ぜひ、次のアクションとして、自分に合った働き方を見つけるための情報収集や相談に取り組んでみてください。