薬剤師不足はなぜ起きる?知っておきたい地域差とキャリアへの影響

「薬剤師って不足しているって本当?」「今後も薬剤師としてキャリアを積んでいけるか不安」と感じている薬剤師は少なくありません。

この記事では、以下の内容について詳しく解説していきます。

  • 薬剤師は本当に不足しているのか?
  • 薬剤師不足の地域は本当に年収が高いのか?
  • 薬剤師不足解消後に求められる薬剤師とは?

これからも薬剤師として活躍していきたい方、自分のキャリアについて見通しを立てていきたいと考えている方はぜひ参考にしてみてください。

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薬剤師は本当に不足しているのか

結論から言うと、薬剤師は不足していないと言えます。

その理由は、薬剤師数はこの30年間で増加し続けているためです。

具体的には、実は薬剤師は1970年ごろから一貫して増加傾向にあり、1990年は約15万人だったのに対して2020年には約32万人30年間で倍以上増加しています。

そのため、全体的な数値で見ると、薬剤師は不足しているとは言えません。

薬剤師不足と言われるの現状の薬剤師数

薬剤師不足と言われている現状の薬剤師数は321万9820人です。

厚生労働省の調査によると、2020年の薬剤師数は321.982万人で、前回の2018年の数値と比較しても約1万人増加しています。

薬学部の6年制導入や薬学部を持つ学校が増えていることで、増加傾向にあるとされています。

そのため、全体の人数としては」充足していると言われています。

施設・業務の種別にみた薬剤師数

働く場所の薬剤師数では、薬局やドラッグストアで働く薬剤師数が圧倒的に多いです。

施設・業務別で見てみると、薬局で従事している薬剤師は188,982人(2024年)で、医療施設での従事者は61,603人(2024年)となっています。

薬剤師の多くは、薬局やドラッグストアで働く人が多くいることが読み取れます。

その背景には、薬局数が1994年を境に増加していることから、働く場所が多い薬局への従事者が増えています。

従事施設従事者数
薬局188,982人
医療施設61,603人
病院55,948人
診療所5,655人
介護保険施設998人
大学5,111人
医薬品関係企業39,044人
衛生行政機関または保険衛生施設6,778人
その他19,462人
参照:医師・歯科医師・薬剤師数、構成割合及び平均年齢,性・年齢階級、施設・業務の種別
薬局・医療施設に従事する薬剤師数の推移(厚生労働省)

年齢・施設の種別にみた薬剤師数

各施設で働く薬剤師を年齢別に見てみると、20代〜30代の薬剤師の多くは薬局や医療施設で従事していることが分かります。

一方で、40代以降になると医薬品関係企業で働く薬剤師が多いことから、現場での経験を積んだのち、医薬品を作る側として働く場所を変えている人が多いと考えられます。

年齢薬局
医療施設
医薬品関係企業衛生行政機関
保険衛生施設
29歳以下33,771人3,766人904人
30〜39歳66,092人8,710人2,467人
40〜49歳57,580人8,963人1,514人
50〜59歳47,061人10,236人1,447人
60〜69歳33,560人5,008人396人
70歳以上12,521人2,361人48人
参照:医師・歯科医師・薬剤師数、構成割合及び平均年齢,性・年齢階級、施設・業務の種別

人口10万人当たりの薬剤師数は海外と比較して非常に多い

実は、日本の薬剤師数は海外と比較して非常に多いと言われます。

OECDの調査によると、人口10万人あたりの薬剤師数はOECD加盟国の中では日本が最も多く、2019年時点で190人

2番目のベルギーで127人なので、海外と比較してみても人口10万人当たりの薬剤師数は非常に多いことが分かります。

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薬剤師不足と言われるの現状の薬剤師需要

実際の薬剤師の需要は低下傾向にあります。

これまでお伝えしている通り、薬剤師は年々増加傾向にある一方で、求人数は平成28年から平成30年の3年間で約3000件減少しています。

その理由は、AIの導入や働き方改革などによるものです。具体的には、登録販売者など薬剤師資格がない人でも医薬品業界で働くことができたり、患者一人一人の薬歴管理や薬の一包化など業務内容が変化していることが挙げられます。

そのため、ニーズは一定数あるものの供給量が多くなると予想されています。

薬剤師の有効求人倍率は減少している

一般的には、有効求人倍率が高いほど求職者1人あたりの求人数は多くなるので「売り手市場」と言われます。

現在薬剤師はまだ売り手市場と言えますが、有効求人倍率は低下していっています。

厚生労働省が出している「一般職業状況について」によると医師・薬剤師の有効求人倍率は、2016年は5.92だったのに対して、2020年には2.01にまで減少しています。

全国の平均有効求人倍率は0.97となるので、薬剤師の有効求人倍率は、全体平均よりは高いものの、減少傾向にあります。

年度有効求人倍率
2016年5.92
2017年5.25
2018年4.40
2019年3.49
2020年2.01

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薬剤師一人当たりの処方せん枚数も減少傾向

薬剤師の需要を測る指標のひとつに処方箋枚数があります。

薬剤師一人当たりの処方せん枚数も減少傾向にあります。

厚生労働省の調査によると、2018年度の処方箋枚数は8億1,228枚でしたが2022年度には7億9,987枚でした。

一人当たりの枚数に換算すると2018年度は約4,500枚だったのに対し2022年度は約2,470枚と年々減少しています。

つまり、処方箋枚数という観点で見ると薬剤師の需要は減少していると捉えられます。

年度一人あたりの処方箋枚数
2018年度約4,500枚
2020年度約4,400枚
2022年度約2,470枚

薬剤師数は地域により不足もある

ですが、地域ごとに見てみると薬局での業務量に対し薬剤師の数が足りているかを調べた厚生労働省の調査では、福井県が最も薬剤師数が不足しており、次いで青森県が2番目に薬剤師数が不足しています。

地方にいくほど、各施設においての薬剤師数が足りておらず、1人あたりの業務量が都市部の薬剤師と比較しても多いとされています。

薬学を学ぶ学生に対し、サービスを必要とする高齢者をはじめとした患者数が多いことも、地方での薬剤師数が不足している原因です。

人口10万人当たりの薬剤師数は都道府県により差が大きい

2020年の人口10万人あたりの薬剤師数は全国平均で198.6人です。

この平均値を下回る地域では薬剤師の需要が高まるのですが、平均以上に薬剤師が多いのは、徳島県・東京都・兵庫県・広島県・大阪府・山口県・香川県・福岡県・高知県・神奈川県・佐賀県の11の地域です。

つまり、残りの36都道府県では薬剤師が平均よりも不足しているということになります。

また、都道府県ごとだけでなく、市町村レベルでも地域格差があるので、薬剤師によるサポートが受けられない地域も存在しており、薬剤師の需要は地域により差が大きい状況です。

薬剤師の数が多い都道府県ランキングTOP5

先ほど述べた11の地域の中で、人口10万人あたりの薬剤師の数が多い順に並べてみると、1位が徳島県で244,0人と最も多く、2位は兵庫県で236,6人、3位は東京都で235,7人、4位は広島県で224,6人、5位は大阪府で221,5人となっています。

都道府県薬剤師数
徳島県244,0人
兵庫県236,6人
東京都235,7人
広島県224,6人
大阪府221,5人
参照:人口1 0万対医師・歯科医師・薬剤師数,従業地による都道府県
-指定都市・特別区・中核市(再掲)、業務の種別、性別

薬剤師の数が少ない都道府県ランキングTOP5

一方で、人口10万人あたりの薬剤師数が最も少ないのは沖縄県で149,4人、次いで福井県で163,6人、青森県で167,2人となっています。

都道府県薬剤師数
沖縄県149,4人
福井県163,6人
青森県167,2人
愛知県176,0人
山形県176,9人
参照:人口1 0万対医師・歯科医師・薬剤師数,従業地による都道府県
-指定都市・特別区・中核市(再掲)、業務の種別、性別

薬剤師不足の地域は年収が高いのか?

薬剤師不足の地域での年収を見てみましょう。

先ほど見たランキングで薬剤師数が最も少なかった沖縄県の平均年収は530.5万円で全国平均の561.7万円より低いことが分かります。

しかし、2位の福井県は565,7万円、3位だった青森県では619.8万円と平均より高い年収となっています。

薬剤師不足の地域全てではないですが、平均値より高い年収なっているエリアが多いため薬剤師の人数と年収に必ずしも相関関係があるわけではありません。

地域別の月収ランキング

2023年度の薬剤師の平均月収は38万8.700円となっています。

47都道府県中、月収40万円を超える地域は16県、月収30万円を下回る県は高知県のみとなっています。

薬剤師の多い都道府県の平均月収(2024年)

都道府県順位平均月収
徳島県46位31.20万円
兵庫県12位40.70万円
東京都21位38.96万円
広島県2位43.89万円
大阪府18位39.31万円

薬剤師の少ない都道府県の平均月収(2024年)

都道府県順位薬剤師数
沖縄県27位37.57万円
福井県32位36.45万円
青森県35位36.01万円
愛知県4位43.77万円
山形県30位36.57万円

【2024年版】薬剤師の全国年収ランキング!厚生省データで都道府県別の比較を徹底解説

薬剤師不足はなぜ起きる?4つの原因

全国的に見ると薬剤師の供給量は多いにも関わらずなぜ、地域によって薬剤師不足が起きるのでしょうか。その要因は以下の4つが挙げられます。

  • 地域により薬剤師数に差があるため
  • 薬局の数が増加しているため
  • 女性薬剤師の潜在薬剤師が多いため
  • 免許を必要としない仕事に就職する薬剤師が多いため

上記4つの要因について説明していきます。

理由①地域により薬剤師数に差があるため

1つ目は、地域によって薬剤師数に差があるからです。

都市部では、薬学部を持っている学校数は当然多く学生も集まりますが、地方に行けばいくほど学校数も学生数も共に減少します。

そうなると、その地域で薬剤師として働く人は少なくなり、結果的に薬剤師が都市部に集中する現象が起きます。

中には、薬局がない無薬局町村も存在しており、薬剤師からのサポートを受けられない地域もあります。

理由②薬局の数が増加しているため

2つ目は、薬局の数が増加しているからです。

2021年度末時点での薬局数は61,791施設で前年度から840施設増加していることが分かりました。

人口10万人あたりの薬局数は、佐賀県、山口県、山梨県、高知県が多く、トップの佐賀県は年々増加しています。

理由③女性薬剤師の潜在薬剤師が多いため

3つ目は、女性薬剤師の潜在薬剤師が多いからです。

2022年の厚生労働省の調査では、女性の薬剤師数は全体の65%となっており、半数以上を占めています。

そもそも潜在薬剤師とは、薬剤師免許を持ちながらも薬剤師としては働いていない人のことを指します。

潜在薬剤師となる大きな理由は、女性には出産や子育てといったライフイベントがあるからです。

どんなに豊富な経験を持っていても、一度離れた職場に同条件で復職する難しさから、女性薬剤師の多くは潜在薬剤師となってしまうのです。

理由④免許を必要としない仕事に就職する薬剤師が多いため

4つ目は、免許を必要としない仕事に就職する薬剤師が多いからです。

薬剤師は患者さんと面と向かって業務を行う所謂「接客業」です。

接客が苦手と感じる人は、薬剤師の資格を持ちながら学んだスキルを活かせる、製薬会社の開発部や研究部へ就職したり公務員として就職する人もいます。

そのため自分の適性を見た上で、薬剤師免許を持ちながらも学んだスキルを活かせる他業種へ就職する人が多いのです。

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薬剤師不足はいつまで続くのか|将来予測

地域によって薬剤師数の差があることはお伝えしてきましたが、今後この薬剤師不足はいつまで続くのでしょうか。

ここからは薬剤師の今後について、下記3つのポイントに分けてお伝えしていきます。

  1. 今後は薬剤師数が需要を上回る見込み
  2. AIにより需要が減少する見込み
  3. ファーマシーテクニシャンにより需要は減少する見込み

今後は薬剤師数が需要を上回る見込み

厚生労働省の調査によると、今後数年間は需要と供給が均衡する状況が続くものの、長期的に見ると、供給が需要を上回ることが見込まれています。

あくまでも、薬局や医療機関における薬剤師の業務が変わらないことを前提にしているものなので、必ずしもこの通りに推移するわけではないですが、地域差や人口減少が進む中で起きる薬剤師の需要の変化も踏まえて調整する必要があります。

薬剤師は飽和している?実態とこれからの職場別需給状況

AIにより需要が減少する見込み

需要バランスに影響を与えるとされる要因の1つ目は、AIの存在です。

今後も技術の進歩によってAIなどによって単純業務の代替も見込まれています。

すでに一部の薬局では、薬剤師の指示を元に自動でピッキングする機械も導入されており、技術革新によって薬剤師の需要が減少する可能性があります。

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ファーマシーテクニシャンにより需要は減少する見込み

需要バランスに影響を与えるとされる要因の2つ目は、ファーマシーテクニシャンの存在です。

ファーマシーテクニシャンとは、薬剤師の指示に基づいて医薬品のピックングなどの調剤業務の一部を行うスタッフのことです。

元々は欧米で一般的な職種でしたが、日本では2019年4月2日より、一定の要件を満たせばこの業務を行えるようになりました。

欧米に比べると裁量は限定的ですが、薬剤師不足の緩和に繋がる制度として注目されています。

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薬剤師不足が解消されたときキャリアはどうなる?

これまでお伝えしてきた通り、薬剤師不足の解消が近づいているといっても過言ではない世の中で、今は好条件で働けていても、勉学を怠ったり転職を繰り返してしまうと、返って自己評価を下げてしまうかもしれません。

薬学のプロとして、十分な知識や経験を持ち、多くの職種・人と連携を取れる人材になることが求められています。

対人業務としてコミュニケーション能力が求められる

令和2年の調剤報酬改定によって、単に薬を提供するだけだった「対物業務」から患者中心のサービスを提供す「対人業務」へと変化しています。

豊富な知識や経験だけでなく、患者さんとコミュニケーションを取りながら患者さんにあったサポートをしていく必要があります。

AIやロボットで代用できない業務の1つとなるので、高いコミュニケーション能力が求められます。

かかりつけ薬剤師の重要性が高くなる

高齢者が増え、病床数の削減に取り組む政府の動きもあり、地域医療における薬剤師の重要性が高まってきています。

そのため、薬局やドラッグストアで地域包括ケアシステムに置いて、地域に根ざして患者さん視点の業務を行うかかりつけ薬剤師の重要性が高くなります。

在宅薬剤師の価値が高くなる

高齢者の増加に伴い、高齢患者の容体に合わせて自宅で薬局と同じように服薬指導を行う、在宅業務を行う薬剤師の需要が高まります。

高齢化社会の現代だからこそ、24時間365日いつでも対応できる在宅薬剤師は、今後存在価値が高まる働き方の1つです。

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まとめ|​​薬剤師不足はなぜ起きるのか

全体的にみると薬剤師の数は増加傾向にあり、薬剤師不足とは言い難い数値が出ています。

一方で地域別に見てみると、地域格差はとても大きく地方に行くほど薬剤師の数は不足しています。

さらに、働き方が多様化している現代の中で、薬学を学んだものとして薬を提供する側ではなく「作る側」に回る人もいれば、自身のライフイベントに合わせて働きやすい形態で働く人もいます。

高齢化や過疎化が進む現代で、確実に患者へ医療サービスを提供していくためには、地域差をなくすための働き方サポートをしていくことや、相手に合わせたサービスの提供を行っていくことが欠かせません。

自分にとって、ベストな働き方とは何か。薬剤師としてどう活躍していきたいか。を改めて考えるきっかけにしてみてください。