在宅医療薬剤師の仕事内容と役割は?薬局の現状の大変さも詳しく解説!

高齢化の進む日本において、在宅医療および在宅薬剤師の必要性は年々高まっています。

しかし、在宅薬剤師として働く環境は未整備であることが多く、薬局・薬剤師への負担が大きいのが現状です。

この記事では、在宅薬剤師の具体的な仕事内容から、在宅薬剤師以外のキャリアについても紹介します。

この記事を読むことで、薬剤師としてどんなキャリアの可能性があるのかわかるようになります。

在宅薬剤師としての今後のキャリアを検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。

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在宅医療薬剤師とは?

在宅医療薬剤師は、自宅や施設で療養する患者さんに対して、薬剤師が患者宅へ訪問し適切な薬物療法や服薬指導を提供する仕事です。

患者さんや家族の不安を解消し、より安心して治療を受けられるよう、医師や看護師と連携してチームでのサポートを行います。

また、患者さんの状態に合わせた薬の管理や副作用のモニタリングも重要な役割の一つです。

在宅医療薬剤師は、患者さんの治療過程において、日々変動する病状や様々な薬物の使用方法を確認し、適切な判断が求められる職種であり、コミュニケーション能力も不可欠です。

在宅医療薬剤師の5つの仕事内容

在宅医療薬剤師の仕事内容は主に以下の5つです。

  1. 患者さんの自宅や施設に薬を届ける
  2. 患者さんの薬の飲み合わせを確認する
  3. 訪問先の残薬を管理する
  4. 訪問先で患者さんに服薬指導を行う
  5. 医療・福祉関係者との連携・情報共有を行う

①患者さんの自宅や施設に薬を届ける

在宅医療薬剤師は、患者さんが自宅で療養している場合や施設に入居している場合も、適切な薬を届けることが求められます。

医師が処方箋を出してから、薬局で調剤された薬を患者さんの自宅や施設へ届けることで、患者さんが通院する負担を軽減します。

また、認知症や嚥下機能低下などの状態がある患者さんに対し、適切な薬剤管理や調剤を行うことが重要です。

②患者さんの薬の飲み合わせを確認する

在宅医療薬剤師は、患者さんが複数の薬を服用する場合に、薬の飲み合わせや相互作用に注意してチェックを行います。

患者さんが服用している市販薬サプリメント食品との相互作用も確認し、悪影響を与える可能性がある場合は医師や看護師と連携して対応を行います。

また、ヒアリングや患者さんの手帳を確認し、適切な服用方法や注意点を指導することで、患者さんの安心感を高めます。

③訪問先の残薬を管理する

訪問先で患者さんの自宅にある残薬を管理することも、在宅薬剤師の重要な仕事のひとつです。

在宅患者の中には薬の残数を把握していない患者さんも多くいます。残薬の管理ができていないことで、飲み忘れや重複服用のリスクも高まります。

適切な量の残薬を管理することで、リスクを低下させることも在宅薬剤師の役割です。また、患者さんの状況に応じて医師に薬の変更や服用回数の減少を提案することもあります。

大量の薬を持っている高齢の患者さんにとっては、残薬の管理は節約や誤服用の恐れを減らす大きな助けにもなります。

④訪問先で患者さんに服薬指導を行う

訪問先で患者さんに薬をお渡しし、正しく薬を服用する方法や情報を伝えることは在宅薬剤師の基本的な仕事の一つです。

服用時間、服用回数、服用量などの基本情報保管方法、注意点、副作用、飲み合わせなどを患者さんやご家族に説明し、必要に応じて変更や追加情報を提供します。

また、患者さんの不安や悩みを聞くことも服薬指導の一環です。

疑問や健康に関する相談に耳を傾け、適切なアドバイスも行います。

⑤医療・福祉関係者との連携・情報共有を行う

在宅医療のチームで働く薬剤師は、医師や介護職、看護師などと緊密に連携し、患者さんに提供する医療・福祉の質を高めるために情報共有が重要です。

互いの担当する業務や患者さんの状況について報告し合い、薬の副作用や併用時の注意、療養に関する相談などを速やかに対応します。

さらに、薬剤師は福祉関係者や本人の在宅療養の状況を確認し、適切な提案や変更が必要な場合に医師と相談することで、患者さんの在宅療養がより安心で快適になることを目指します。

在宅医療薬剤師の社会的ニーズ

高齢化が進む現代社会において、在宅医療薬剤師の役割はますます重要になっています。

患者さんの自宅での療養をサポートすることで、病院での治療だけではなく、地域に密着した医療の提供が可能となります。

また、医療と福祉の連携が求められる中で、在宅医療薬剤師は多職種と連携し、患者さんに適切な医療・ケアを提供することで、地域社会への貢献も果たしています。

在宅医療薬剤師の社会的ニーズはこれからも高まり続けると見られているため、在宅薬剤師の必要性について把握しておくことが重要です。

在宅医療の患者数の増加

在宅医療での外来診療患者数は、現在およそ17万3000人に上り、平成17年と比較するとおよそ2.6倍になりました。

これは、過去15年で倍以上に増加していることを示しています。

この増加には、高齢化や少子化などの要因が影響しており、今後も増加し続けると見られています。

参照元: 厚生労働省「令和2年(2020)患者調査の概況」/1(3)在宅医療の状況

日本社会の高齢化

現在の日本では、人口のおよそ28.9%が65歳以上と高齢化が進んでおり、今後さらに高齢化が進むことが予想されています。

高齢化が進むことで、在宅医療や介護のニーズが増加し、在宅薬剤師の需要も高まっています。

参照元: 総務省/令和4年版高齢社会白書 第1節高齢化の状況総務省/令和4年版高齢社会白書5高齢化の要因

総務省/令和4年版高齢社会白書 第2節高齢期の暮らし動向・2健康・福祉・(2)65歳以上の者の介護

療養病床の再編(病床の削減)

医療業界では、医療費の効率化および病床数の過剰共有を要因として、療養病床の再編が進行しており、平成5年をピークに病床数が削減されています

これは、人口減少と高齢化による現役世代の医療費負担増加に対応するための再編施策です。

病床数を減らして、患者が自宅で必要なケアを受けることが国から求められており、在宅医療や介護の重要性が増している状況です。

今後も病床数は削減傾向であり、在宅医療薬剤師の社会的ニーズは高まっていくと見られています。

参照元: 厚生労働省/「医療提供体制の現状」 〜病院数の推移〜

在宅患者の薬の受け取りに関するニーズの増加

在宅患者の中には、外出が難しい方や、自分一人で購入に行けない方が少なくありません。

そんな患者が処方された薬剤を調剤薬局や病院で取りに行くことが難しい場合があるため、在宅患者の薬の受け取りに関するニーズも高まっています。

在宅医療薬剤師の現状と課題

日本では医療制度の発展とともに在宅医療のニーズが拡大し、薬剤師が果たす役割の重要性が高まっていますが、在宅薬剤師が活躍できる環境はまだ整っていないのが実情です。

例えば、在宅患者訪問薬剤管理指導の実施率の低さ薬剤師不足休日・夜間対応の体制が整っていないことなどが挙げられます。

ここでは、各課題の具体的な内容について解説します。

在宅患者訪問薬剤管理指導の実施率

日本薬剤師会によると、在宅患者への訪問薬剤管理指導の実施率は低いままです。

平成28年時点で訪問薬剤管理指導届出を出している薬局は82%ですが、訪問薬剤管理指導を実際に実施している薬局は医療保険で5,157薬局(11%)、介護保険で16,204薬局(33%)のみです。

届出数と実施数に乖離がみられるのには原因があります。

それは、薬剤師の少ない小規模な薬局では、患者宅へ訪問することが薬剤師の大きな負担となり、開局時間内に患者宅に訪問することが難しいからです。

また、訪問時には薬局内の業務を進めることができず、訪問薬剤管理指導後に局内の業務をこなすことになるため、薬剤師の長時間勤務につながりやすいことも要因のひとつです。

在宅医療薬剤師の不足

近年、在宅医療のニーズは高まっていますが、在宅医療対応の薬剤師が不足しています。

在宅医療は薬局・薬剤師にかかる負担も大きく、地域によっては対応が困難な状況です。

特に、小規模な薬局においては、在宅医療に対応できないケースが増えています。

この問題を解消するためには、在宅医療薬剤師および薬局への補助や、在宅医療薬剤師の育成や経験豊富な薬剤師の確保が不可欠です。

休日・夜間対応の体制が整っていない

在宅医療の休日・夜間対応は、小規模な薬局にとって大きな問題となっています。

特に早朝や閉局後の対応は、薬剤師の負担も大きく、効率的な業務を実施するには人数や勤務体制が十分ではありません。

現状では、薬剤師自体が不足しており、休日や夜間に随時対応できる体制が整っていないことが、在宅医療の壁となっています。

無菌調剤設備がなく対応できない

無菌調剤設備がない薬局では、無菌調剤対応が難しいため、特定の処方箋に対処できないことがあります。

無菌調剤とは、細菌やカビなどの環境汚染物質を遮断し、無菌状態を維持して調剤を行うことです。

これは主に抗がん剤や内用注射剤など、感染リスクが高い薬剤に対して必要とされる方法です。

無菌調剤設備がない薬局は、そのような処方箋に対応できず、患者さんに別の薬局を紹介する必要があります。

そのため、患者さんは複数の薬局を訪れる手間や、信頼関係の構築が難しくなることが問題となります。

在宅医療薬剤師に求められる3つのこと

在宅医療薬剤師には、以下の3つのスキルや役割が求められます。

まず、薬剤管理能力が重要です。患者さんの自宅で薬剤を管理・調剤し、使用期限や副作用の確認ができることが求められます。

次に、服薬指導力です。患者さんや家族に対し、薬剤の正しい服用方法や飲み忘れの防止策を分かりやすく説明することが重要です。

最後に、地域の医療チームと連携する力が求められます。医師や看護師と情報共有し、患者さんの状況に合わせた最適な医療サポートを提供することが大切です。

薬剤の保管状況の管理

在宅医療薬剤師は、患者さんの自宅で薬剤の保管状況を管理する必要があります。

これには、薬剤の置き場所や温度管理、湿度管理、使用期限の確認などが含まれます。

適切な保管状況を維持することで、薬剤の品質を保ち、患者さんに正しい効果を発揮させることができます。これにより、患者さんの健康状態の改善や、副作用の低減にも繋がります。

薬剤の飲み忘れの防止

在宅医療薬剤師は、患者さんの薬剤の飲み忘れを防ぐためのサポートが求められます。

具体的には、分かりやすい服薬指導や、服薬カレンダーの作成薬剤の整理方法などを提案することが重要です。

また、患者さんや家族とのコミュニケーションを大切にし、信頼関係を築くことで、より適切な服薬管理が可能になります。

薬剤の飲み忘れを防ぐことは、患者さんの健康状態を改善し、治療効果を最大限に引き出すために不可欠です。

服用薬剤の理解の促進

在宅医療薬剤師は、患者が服用する薬剤について理解を深め、正しい服薬習慣を促すことが重要です。

薬剤師は患者に対し、薬の効果や副作用について説明し、適切な用法用量の指導を行います。

また、薬の相互作用や患者の健康状態に配慮した薬剤選定の提案も行われることがあります。

薬剤師と患者が密接に連携し、お互いの意見や懸念を共有することで、患者の治療効果が向上し、服薬管理がスムーズに進むとともに、副作用のリスクも低減させることができます。

在宅医療薬剤師で大変な3つのこと

在宅医療薬剤師には、以下のような大変な点が3つあります。

  1. 開局時間外に訪問が必要
  2. 患者負担の問題で訪問が拒否される
  3. 医師への報告書作成等の負担が大きい

それぞれについて詳しく見ていきましょう。

開局時間外(早朝や夜間)に訪問せざるを得ない

在宅医療薬剤師は、患者の自宅を訪問するため、通常の勤務時間外(早朝や夜間)に働かざるを得ないことがあります。

これは患者の希望や緊急性によって変わりますが、薬剤師の労働時間やプライベートに影響を及ぼすため、在宅医療薬剤師は大変です。

患者負担の問題で訪問を拒否される

一部の患者は、費用やプライバシーの問題で薬剤師の訪問を拒否することがあります。

その場合、薬剤師は適切な服薬指導や連携が難しくなるため、患者の療養をサポートする上で困難な状況に立たされることがあるのです。

医師への報告書の作成等の負担が大きい

在宅医療薬剤師は、患者の訪問や薬剤管理だけでなく、医師への報告書の作成や情報共有も求められます。

医師への報告書の作成には時間と労力がかかり、薬剤師への負担は大きいです。

例えば、訪問後に報告書の作成を行う場合には、業務時間外での作業となることもあります。

中には、在宅薬剤師をやりたくないと考える薬剤師もいて、下記の記事でもその実態を詳しく解説してます。

より在宅薬剤師の実態を知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみてください。

薬剤師が在宅をやりたくない7つの理由!大変できついときはどうする?

在宅医療薬剤師に求められるスキル・資格

在宅医療薬剤師には、患者の状態やニーズに応じた薬物療法を提案し、適切な服薬管理を支援するための基本知識やスキルが求められます。そのため、以下の要素が重要と言われます。

  • 在宅医療に関する知識
  • 几帳面で正確な性格
  • コミュニケーション能力
  • 医師や家族との連携
  • 実践的な提案力

また、在宅医療薬剤師は患者の家庭環境や生活状態を加味した対応が必要であり、医師や他の医療関係者と協力して患者の安全と快適な療養を支援する役割を担っています。

在宅医療に関する基本知識の習得

在宅医療薬剤師として成功するためには、在宅医療に関する基本知識を習得することが不可欠です。

これには、患者の病態や薬物治療を始め、訪問看護や介護サービスの利用方法、地域の支援体制など、在宅医療に関連する様々な情報を理解し、適切に活用できる能力が求められます。

コミュニケーション能力と提案力

在宅医療薬剤師は、患者や家族、医師との円滑なコミュニケーションが必須です。

そのため、状況に応じて臨機応変に対応し、他者の考えや意見を理解し共有できるコミュニケーション能力が求められます。

また、患者ごとの独自の療養環境や在宅療法に対応するため、高度な提案力も不可欠となります。

「在宅療養支援認定薬剤師」

在宅医療の専門家として活躍するために、在宅療養支援認定薬剤師の資格を取得することが推奨されます。

この資格は、在宅医療に携わる薬剤師の知識や技能の向上を目指す制度で、日本薬剤師緩和ケア学会や日本在宅医療薬剤師会などの認定団体が運営しています。

取得することで、患者の療養を適切に支援するための専門的な知識やスキルが身につきます。

在宅医療薬剤師のキャリアパスとメリット

在宅医療薬剤師は、地域の患者や医療チームと連携し、在宅療養者の薬物療法を支援する専門職です。

キャリアパスとしては、在宅医療の専門知識を身につけ、認定薬剤師の資格を取得することで、専門性を高めることができます。

メリットとして、将来的にもニーズの高いキャリア人材になれることがあります。

また、在宅薬剤師でキャリアを積むことは、他の薬剤師との差別化が図れるため、キャリアアップにも繋がります。

これからの在宅医療の発展と働き方の変化

高齢化社会が進む中で、在宅医療の需要はますます拡大していくでしょう。

そのため、在宅医療薬剤師の働き方も変化が見込まれます。例えば、オンラインでの相談や研修が増えることで、働く環境がより柔軟になるでしょう。

また、看護師や介護士と連携し、チーム医療が進むことで、薬剤師の役割がより重要視される傾向にあります。

家族や地域とのつながりを深める仕事

在宅医療薬剤師は、患者やその家族、地域とのつながりを深める重要な役割を担っています。

訪問薬剤師として、患者の自宅を訪問して薬物療法の指導や健康状態の確認を行い、家族や地域との信頼関係を築きます。

そのため、コミュニケーション能力や地域に根ざした活動が求められる職種となります。

在宅医療薬剤師以外の薬剤師のキャリア

在宅医療薬剤師以外のキャリアパスとして、病院薬剤師調剤薬局薬剤師があります。

病院薬剤師は病院で働く薬剤師で、薬物治療の企画・実施など幅広い業務を担当し、専門性を高めることができます。

一方、調剤薬局薬剤師は、調剤薬局で働き、処方せんに基づく調剤業務や、患者への服薬指導を行います。

各職種によって、専門知識やスキルが異なるため、自分に適したキャリアを選択することが重要です。

単科医院に近接した調剤薬局

単科医院に近接した調剤薬局は、処方箋の数もそれほど多くなく、調剤も比較的簡単なものが多いため、落ち着いて仕事ができる環境といえます

特に専門外来で診察を受ける患者さんが多い場合、症状も一定しているため、薬剤師としての対応もスムーズに行えます。

また、地域密着型の薬局であれば、患者さんとのコミュニケーションも円滑に進み、地域医療に貢献できることも大きな魅力です。

安定期の患者さんが利用する病院薬剤師

回復期リハビリテーション病院や療養型病院では、安定期の患者さんが多く利用するため、病院薬剤師として緊急対応が少なくなります。

患者さんの容態も急変することが少なく、高度なハイリスクな薬の取り扱いも極めて少ないため、忙しい中で大きな医療事故に怯えながら働く必要がありません。

それにより、薬剤師としての仕事に集中できる環境が整っています。

製薬会社や医薬品卸などの企業

製薬会社や医薬品卸などの企業に勤める薬剤師は、高年収でワークライフバランスが良いと言われています。

残業が少なく、休みも比較的多いため、働きやすい環境が整っています。

品質管理薬事DI職CRAなどの職種があり、未経験でも可能なポジションも存在します。

企業薬剤師に未経験からの転職に興味のある方は、転職方法とおすすめ職種を紹介していますので、こちらの記事もぜひ参考にしてみてください。

未経験でも薬剤師が企業へ転職できる?おすすめ5つの職種

まとめ|在宅医療薬剤師の役割は重要だが負担は大きい

在宅医療薬剤師の役割は重要ですが、負担も大きいことを理解した上で、自分に適した働き方を選択することが大切です。

単科医院に近接した調剤薬局や安定期の患者さんが利用する病院、企業など、薬剤師として働く場が多岐にわたります。

ぜひ、次のアクションとして、自分に合った働き方を見つけるための情報収集や相談に取り組んでみてください。