薬剤師はオワコンか|5つの理由と生き残る3つのポイント

「薬剤師の仕事って今後なくなるの?」

「どうしたらこれからも薬剤師としてキャリアを積んでいけるのか」

このように感じている不安や焦りを感じている薬剤師は少なくありません。

この記事では、以下の内容について詳しく解説します。

これからも薬剤師として活躍していきたい方、勤務先を新たに考えている人は、ぜひ参考にしてみてください。

薬剤師がオワコンと言われる5つの理由

「え、薬剤師ってオワコンなの?」「このままじゃ薬剤師としての将来が不安」

そう感じた人もいるでしょう。

まずここでは、薬剤師がオワコンと言われる5つの理由を説明していきます。

  1. 薬剤師数の増加
  2. AIの進化と影響
  3. 就職状況の傾向悪化
  4. 診療(調剤)報酬の改訂
  5. 給与が他の医療職と比較して低い

理由1:薬剤師数の増加

オワコンと言われる理由の1つ目は、「薬剤師数の増加」です。

2022年に厚生労働省が発表した調査によると、2020年12月31日時点での薬剤師の数は32万1982名で、前回の2018年の調査と比較すると1万693名増加しています。

増加した要因の一つとされているのが、2018年度入学から開始された、薬学部の6年制です。6年制導入時の薬学部数が66大学・67部だったのに対し、令和2年においては75大学・77学部と大学数・学部数ともに増加しています。(厚生労働省:入学定員・入学者数調査)

こういった背景もあり、将来的には最大で約5万名ほど需要より供給人数が多くなると言われています。(厚生労働省:薬剤師の需給推計)

供給過剰になることで、薬剤師のニーズが今後下がることが予想されています。

そのため、薬剤師の将来性には「未来がない」との意見もあります。しかし、各職場ごとに薬剤師の将来性は異なります詳しくは以下の記事が参考になるので、ぜひ読んでみてください。

薬剤師の将来性は未来がない?職場ごと需給予測と業務の変化から徹底解説!

理由2:AIの進化と影響

2つ目の理由は、AIの進化です。

AIの導入により、対人ロボットやタブレットによる受付業務、患者一人一人の薬歴管理、機械による錠剤や粉薬の一包化など、薬剤師が行っていた業務を担うようになりました。

もちろん、AIを導入することによって業務の効率化だけでなく正確性の向上や人件費を削減することに繋がります。

一方で、元々薬剤師が行っていた業務をAIが担うことで、薬剤師が行う仕事は少なくなり、薬剤師がいなくても薬局の運営が成り立っていく将来が予想されています。

そのため、人件費削減のために薬剤師ニーズが下がり、薬剤師がオワコン化すると考える人もいます。

ただ、本当に薬剤師の仕事はAIでなくなるのか?その疑問については、以下の記事が詳しく解説していて参考になります。

薬剤師の仕事はAIでなくなる|知っておきたいやるべきこと4選と有利な職場

理由3:就職状況の傾向悪化

就職動向調査結果報告書(薬学教育協議会より)によると、令和5年の3月に卒業した薬学部の学生のうち、就職した人は7932名。そのうち、薬局やドラッグストアなどに就職したのは6768名です。

全体の割合で見てみると、薬剤師として就職した人は約70%いますが、残りの3割は薬剤師の資格を持った上で、病院で臨床試験を行う仕事に就く人や製薬会社に入社する人なのです。

薬剤師という仕事は、社会貢献性が高い一方で、医療従事者という観点から「ハードワーク」と捉えられることも少なくありません。

新型コロナウイルスの蔓延や自然災害などの発生により、医療従事者のニーズは高まる一方で、昨今の若者は企業の安定性やワークライフバランスが整っているかなど、将来を見据えて企業選びをする傾向にあります。

また、世の中の採用市場は売り手市場となり、学生が入る企業を選ぶ立場にあります。

だからこそ、今後も活かすことができる国家資格「薬剤師」としての資格は持った上で、製薬会社に入社したり、公務員や一般企業に入社するなど、薬剤師以外の選択をする人も多いのです。

理由4:診療(調剤)報酬の改訂

厚生労働省は2年に1度、調剤報酬改定を行っています。

昨今では、高齢化社会に伴い医療費が逼迫し、医療費の削減に向けて政府は様々な施策に取り組んでいます。

令和4年に行われた調剤報酬改定では、主に4つの項目が大きく変化しました。

その4つの変化について説明していきます。

変更項目詳細
薬局薬剤師業務の対物中心から対人中心への転換の推進対物業務及び対人業務を適切に評価する観点から、薬局・薬剤師業務の評価体系について見直しを行い、薬剤調製料、調剤管理料、服薬管理指導料を新設する。
薬局の機能と効率性に応じた評価の見直しかかりつけ薬剤師が機能を発揮し、地域包括ケアシステム
の中で地域医療に貢献する薬局を評価する。
在宅業務の推進在宅患者への訪問薬剤管理指導について、主治医と連携する他の医師の指示により訪問薬剤管理指導を実施した場合を対象に加える。
ICTの活用外来診療を受けた患者に対する情報通信機器を用いた服薬指導について、服薬管理指導料に位置付け、要件及び評価を見直す。
令和4年度診療報酬改定:厚生労働省

薬局薬剤師業務の対物中心から対人中心への転換の推進

これまでは、薬剤師は医者から処方された処方箋を元に薬を調剤し患者に提供すること、そのために必要や薬袋の作成や書類作成など「薬を提供する人」でした。

ですが、患者さんに対して安心・安全な医療を提供するため、処方された通りの薬を提供するだけでなく、一人一人に合わせた服薬指導、医師に対しての疑義照会など、「患者中心の業務へ転換すること」を推進しています。つまり、どれだけ患者に対して寄り添えたかで服薬管理指導料がつくようになり、内服薬調剤料は今回の改訂によって一律24点となりました。

対物・対人業務をそれぞれ分けて評価される形になったため、この体制に対応できない薬局は経営の悪化が見込まれます。

薬局の機能と効率性に応じた評価の見直し

地域包括医療の拡大を見据えて、「地域支援体制加算」が変更されました。

地域支援体制加算はこれまで38点でしたが、地域医療への貢献度に応じて、施設基準の区分に応じて39点、47点、17点へと細分化されることになりました。

また、後発医薬品の使用促進を図るため、「後発医薬品割合の基準引き上げ」も行われました。薬局内に、どれだけ後発医薬品を設置しているかで、施設基準の区分に応じて30点、28点、21点に引き上げられました。

そのため、地域医療との連携を図れない薬局や後発医薬品の置換率が低い薬局は売り上げが下がっていくので、そういった薬局で働く薬剤師の給料も減少していきます。

在宅業務の推進

高齢者の増加に伴い、政府として病床を減らす政策を行っています。そんな中で推進されているのが、「在宅業務」です。

在宅業務においては、高齢患者さんの容体に合わせて、家で薬局などで行うのと同じように、服薬指導が必要になります。

つまり、24時間365日いつでも対応できる体制・準備を整える必要があります。

通常の薬剤師と比べると勤務時間は多様化するため、ハードな面が多く、皆さんが想像する薬剤師の働き方とは大きく異なることも、オワコンと言われる一つです。

在宅薬剤師をやりたくない理由や今後の在宅医療については以下の記事が参考になります。

薬剤師が在宅をやりたくない7つの理由!大変できついときはどうする?

ICTの活用

厚生労働省の「かかりつけ薬剤師・薬局に関する調査報告書」によると、2017年時点で電子薬歴の普及率は70%ほど。現在ではより普及率は上がっていると言われています。

その理由として、高齢患者が複数の医療機関を利用することで、調剤する薬の数、そして服薬指導する薬の数も増加しているからです。

その上、少子高齢化に伴う労働人口も影響し、「どれだけ業務の簡略化ができるか」が求められているため、AIを導入し、人員不足を解消していく動きは年々高まりつつあります。

多くの高齢患者の複数の処方箋を整理し、一人一人に合わせた服薬指導に繋げることのできるICTの活用は、今後の薬局において欠かせないものです。一方で、薬剤師としての業務が減るので、「薬剤師としてこのままやっていけるのか?」と不安に感じる薬剤師も多いでしょう。

理由5:給与が他の医療職と比較して低い

また、薬剤師は他の医療職と比べると給与が低いと言われています。

令和4年賃金構造基本統計によると、薬剤師の平均年収は583.4万円(2023年度)となっており、日本の平均年収である458万円(国税庁「令和4年民間給与実態統計調査」)より高くなっています。また、他の医療従事者と比較しても上位に入るほど平均年収は高いとされています。

ですが、同じ6年制で卒業する医者と比べると倍以上の差が、薬剤師の給料が低いとされる一つです。

厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、2021年現在での医師は1378.3万円です。数字だけをみれば薬剤師と医師の年収の開きは約2.4倍もあります。

職種名平均年収
薬剤師583.4万円
歯科医師810.4万円
診療放射線技師543.7万円
臨床検査技師508.9万円
理学療法士430.7万円
看護師508.1万円
准看護師418.2万円
医師1428.9万円
引用:賃金構造基本統計調査

こういった一般企業と比較した際の生涯年収や、医師との給与差が薬剤師の年収が低いとされる一つとなっています。

また、薬剤師の年収は都道府県によっても異なります。薬剤師の全国年収ランキングは以下で詳しく解説しているので参考にしてみてください。

【2024年版】薬剤師の全国年収ランキング!厚生省データで都道府県別の比較を徹底解説

オワコン化する薬剤師・薬局の特徴

ここまで、薬剤師がオワコンと言われる理由を5つに分けてお伝えしてきましたが、実際にオワコンと言われる薬剤師とはどんな人なのか、想像しにくい人もいるかもしれません。

ここからは、どういった薬剤師がオワコンと言われてしまうのか、説明していきます。

不勉強な薬剤師

1つ目は、勉強をしない薬剤師です。

薬剤は過去の論文に加えジェネリックや新薬などが開発され、情報は日々更新されています。そのため、自ら新しい薬や医学についての知識を学ぼうとしなければ、患者に対し間違った情報を伝えかねません。

そうなれば、本来正しい情報を伝えなければならない薬剤師としての役割は果たすことができません。

無計画に転職を繰り返す薬剤師

2つ目は、無計画に転職を繰り返す薬剤師です。

終身雇用という働き方が薄くなり、転職は当たり前となりつつあります。薬剤師の転職回数で見てみると、他の職種より転職回数は多いと言われています。

とはいえ、就業期間が1ヶ月〜3ヶ月など短い場合は、長続きしないと捉えられる可能性もありますし、退職理由が自己都合の場合はより一層、採用担当者から見ると悪い印象となり得ます

在宅業務をやりたがらない薬剤師

3つ目は、在宅医療をやりたがらない薬剤師です。

身体の不自由により、病院や薬局に自らの足でいけない高齢者も多くいます。

だからこそ、薬剤師の在宅業務は、通常の薬剤師とは異なり薬局やドラッグストアの開局時間に関わらず、患者さんの容体に合わせて動く必要があるため、24時間365日対応できる体制である必要があります。

また、基本的に対応する方は高齢者の方になるため、飲み合わせや薬の残数など確認しておくことなど、注意することが多いです。医療・介護スタッフとの連携も重要になるため、他の薬剤師に比べるとチームとして動く意識を持つことが欠かせません。

患者に合わせて、多様な勤務時間に対応することに抵抗があり在宅業務を避ける薬剤師は、今後においてはオワコン化するでしょう。

地域包括医療に進出できない薬局

地域包括医療において大事なことは、かかりつけ薬局として適切な薬物治療を提供することです。高齢の患者は複数の医療機関を利用することも多く、処方される薬もその分多いため、ICTなども活用して服薬情報の一元的・継続的把握とそれに基づく薬学的管理・指導を行うことが求められます。

困ったことや相談事があれば、薬剤師に相談できる環境を作ること、それが地域包括医療です。高齢化社会に伴い、独り身で暮らす高齢者の方も増えてきているからこそ、個人単位ではなく地域全体で、薬局やドラッグストアを拠点とし、地域一体で高齢者をサポートできない薬局はオワコン化するでしょう。

オワコン薬剤師にならないための3つのポイント

オワコン薬剤師の特徴についてお伝えしましたが、今後薬剤師として活躍していくためには、どんなことが必要なのでしょうか?

皆さんがオワコン薬剤師にならないための3つのポイントをお伝えしていきます。

ポイント1: 専門知識の習得

日本では、毎年100品目以上の薬が承認されています。そのため、どんなに薬剤師としての経験を積んでいても、日々更新されていく最新医療情報を収集していく必要があります。

学校で学んできた専門知識を活かしつつ、患者さんに最新の医療サービスを提供するためにも、学び続けることが欠かせません。

ポイント2: 調剤報酬改訂に対応

調剤報酬は定期的に改定をしているのですが、2024年度は地域包括医療に基づいた改定が行われました。

薬局が地域における医薬品等の拠点としての体制が整備されているかどうか、という観点から見直されました。

こういった改定に対応できているかどうか?という点もポイントの一つと言えるでしょう。

ポイント3: 患者とのコミュニケーション能力をアップ!

薬剤師に求められることは、患者さん一人一人にあった医療サービスの提供、薬に対する不安要素を取り除きサポートすることです。そのためには、しっかりと対話を通して患者さんが抱えている本音を拾い上げる必要があります。

その対話に必要なのが、「観察」「傾聴」「確認」「共感」の4つです。相手が言うことが必ずしも本音とは限りません。だからこそ、相手を見て話を聞き、確認や共感をしながら、本当に相手が薬剤師に求めている答えは何かを考えることが必要となります。

「薬剤師業界」自体はオワコンにはならない2つの理由

AIの導入などによって業界全体としては、オワコンにならないのか?と疑問に感じる方もいるかもしれません。ですが、業界として見てみると実はオワコンにならない理由が2つあるのです。

高齢化社会で薬剤師の需要は継続

1つ目は、薬剤師の需要が継続していくからです。高齢化や病床数の減少が進む中で、鍵になってくるのが「いかに自分自身の健康を守り、快適に生活できるか?」ということです。
症状や薬について理解し、軽度な身体の不調は自分で手当てできるようになることで、病院に通う回数を減らすことができます。

とはいえ、自分自身で学ぶには限度があるのも事実です。そんな時に患者さんに手を差し伸べてあげられるのが、「ドラッグストアなどにいる薬剤師」です。数多くある薬の中で、自分の体質にあった薬を正しく選べるようにサポートすることで、患者さんの健康意欲の増進に繋がります。

社会的重要性

2つ目は社会的重要性です。

高齢者が増える中、政府は医療費を削減するために病床数を減らす政策を行っています。

団塊世代が75歳を迎える2025年には、病床数が不足することも予想され、本来病院で受けるべき医療が受けられない可能性もあります。

だからこそ、薬局やドラッグストアで地域包括ケアシステムに置いて、薬局や薬剤師が地域に根ざして、患者さん視点の業務を行う「かかりつけ薬剤師」、年齢や症状、障害などに関わらず、医療サービスを必要としている患者さんに対して、その方にあった医療を提供する「在宅医療」

この2軸を通して、薬剤師は長期的に高齢者の健康を守るサポートを行っているため、高齢化社会にとっては必要不可欠な存在です。

まとめ|薬剤師はオワコンか

高齢化が進む中で、医療従事者はますます欠かせない存在になります。その中でも、患者様一人一人に合わせた医療を提供するためには、感情を持たないAIではなく、人に寄り添い医療サービスを提供できる「薬剤師」という人が今後も必要不可欠です。

地域社会、地域住民が互いに協力しながら、自分自身の健康を意識し、健康的に過ごしていける社会にするための重要拠点として薬局やドラッグストアが存在し続けています。

そんな場所で働く薬剤師は、これからも地域社会で暮らす人々の健康を支える重要な仕事の一つなのです。