「薬剤師がなくなるのは本当か?」
「薬剤師の仕事がAIに置き換わってしまうのか?」
このような不安を感じている薬剤師は少なくありません。
この記事では、以下の内容について詳しく解説します。
- 薬剤師がなくなると言われる現状とAIの台頭
- AIによってなくなると言われている薬剤師の業務
- 薬剤師がAIに代替されないためにするべきこと4選
この記事を読むことで、自身のキャリアをより向上させるためのヒントを得ることができます。
今の現状に満足していない薬剤師の方、キャリアの方向性を模索している方はぜひ参考にしてみてください。
近い将来、「薬剤師がなくなる」「薬剤師の仕事がAIに置き換わる」と言われています。
なぜ、薬剤師がいらなくなると言われているのでしょうか。
ここでは、薬剤師の立場が変化している現状を紹介します。
- 薬剤師の飽和による需要の減少
- 医療費削減による雇用の減少
- AI・機械の導入による業務の減少
薬剤師の飽和による需要の減少
厚生労働省によると、2045年時点には2万4000人~12万6000人の薬剤師が供給過剰になると想定されており、将来的に薬剤師は飽和して需要は減少する見込みです。
当面は需要と供給は同程度で推移することになるが、将来的には業務の充実により需要が増えると仮定したとしても、供給数が上回ることが予想される。
薬剤師の需給推計(案)
これは、薬学部が6年制に移行し、日本中にたくさんの薬学部が新しくできたことが、薬剤師が増える要因の一つとして挙げられます。
医療費削減による雇用の減少
将来的に増え続ける医療費に対し、政府は医療費削減に向けた施策を強化しています。
医療費削減対策として、調剤報酬の改定が頻繁に行われており、薬剤師の雇用状況にも影響が出ています。
特に、処方せんをもとにした調剤技術料は減少しており、調剤報酬に依存している薬局の経営はきびしい状況です。
今後も高齢化に伴い医療費削減の施策が強化されていくと、薬局は経費削減のために以下のような対策が必要になります。
- スキルの高い薬剤師だけ採用する
- 薬剤師でなくてもよい業務を他の人材が担当する
- 薬剤師業務をAIや機械などでシステム化する
そのため、医療費削減によって将来的にも薬剤師の雇用は減少すると予想されています。
AI・機械の導入による業務の減少
AIや機械などの技術が医療分野に導入されることで、薬剤師の業務の一部が自動化されつつあります。
具体的には、以下の業務です。
- 調剤業務
- 薬歴管理
- 薬局での受付業務ほか
単純作業と言われる業務は、薬剤師が行う必要はなく、AIによる代替が進むと言われています。
薬剤師の代表的な業務は以下のものがあります。
- 調剤業務
- 服薬指導業務
- 薬剤管理
- 処方せん鑑査と疑義照会
- 調剤と薬剤鑑査
これらはAIに代替されるものもあれば、患者とのコミュニケーションの中で薬剤師の対応が必要になる重要な業務もあります。
調剤業務
調剤業務は、病院で処方された薬を正確に準備し、患者さまに渡す大切な仕事です。
通常、処方される薬は先発品ですが、患者さんが希望する場合は同じ成分で安いジェネリック医薬品(後発医薬品)に変えることもあります。
また、患者さんによっては、複数の薬を組み合わせて調剤することもあり、薬の知識がとても重要です。
服薬指導業務
服薬指導業務は、薬剤師が患者さんに医薬品の正しい服用方法を説明する大切な仕事です。
薬をいつ、どのくらいの量で飲むべきか、正確な服用方法を指導します。
また、薬の飲み合わせや副作用について説明し、患者さんが安全に薬を使えるようサポートします。
薬剤管理
薬剤管理は、患者さんの処方記録や調剤のスケジュールを管理する業務です。
薬の在庫を管理したり、使用期限切れを管理したりする役割もあります。
処方せん鑑査と疑義照会
処方せん監査は、処方せんに記載されている内容が正しいか、また患者にとって適切かを確認する業務です。
疑義照会は、処方せんの内容について疑問や不明なところがあった場合に、作成者に確認します。
具体的には、高齢者で意思疎通に不安のある方や、飲水制限がある方など、医師の処方した薬では適切な服用が難しいケースもあり、薬剤師によるチェックが必要になります。
薬事法24条で定められた薬剤師の義務であり、重要な業務です。
調剤と薬剤鑑査
調剤は、処方せんにしたがって医薬品を用意し、患者さんに交付する業務です。
薬剤鑑査は、調剤が間違っていないかどうか、該当の調剤を担当していない薬剤師が確認を行う業務です。
近年のAIの進化によって、薬剤師の業務が効率化され、単純作業が自動化されています。
特に調剤業務と薬歴管理では、AIや機械の導入が進んでいます。
なぜなら、これらの業務は患者とのコミュニケーションを必要としないからです。
ここでは、AIに代替されている薬剤師業務について解説します。
調剤業務
調剤業務は、すでにAI技術や機械の導入が進んでいる業務です。
調剤業務には具体的に以下の作業があります。
- 処方箋の読み取り
- 薬剤の選定
- 薬剤の自動分包機
これらの作業は、これまで薬剤師が手作業で行っていたためヒューマンエラーが稀に発生していました。
上記のような”作業”はAIが得意とする業務のため、調剤業務はAIに代替されていくと言われています。
薬歴管理
今後は、薬歴管理においてもAIの導入が進むと言われています。
患者さまの薬歴情報をAIが分析し、アレルギー歴や既往症、薬の相互作用などのリスクを自動的に解析します。
また、薬剤師の服薬指導の会話をAIが分析して、薬歴文章を自動的に生成するようなシステムの開発が進んでいます。
実は、これまで薬剤師が行っていた業務の中にも、すでにAI活用と機械化がされている業務があります。
それが以下の2点。
- 受付業務
- 調剤作業
いわゆる単純作業と呼ばれる業務については薬剤師自身が行わないケースも増えてきています。
受付業務
処方せんの受付業務では、AIの活用が進んでいます。
対人ロボットやスマホを使った受付システムが導入され、待ち時間の短縮や入力ミスを防止する効果があります。
受付業務にAIを活用することで、薬剤師業務の負担を軽減し、服薬指導などの薬剤師にしかできない業務に集中できるようになりました。
調剤作業
前述した通り、調剤業務ではAI技術や機械の活用が進んでいます。
自動分包機の導入により散剤分包や錠剤の一包化が機械化され、ピッキング業務には監査システムが導入されています。
薬剤師が手作業で行っていた作業が機械化され、調剤の正確性とスピードが格段に向上しています。
薬剤師の業務にAIを活用することによって、様々なメリットがある一方でデメリットもあります。
AIを活用するメリットは主に以下の2点です。
- 業務の効率化
- 離職率の低下
デメリットは以下の2点です。
- 薬剤師の雇用の減少
- 情報漏洩のリスク
- 導入コスト
メリット
AIを活用する最大のメリットは「業務の効率化」です。
薬剤師には、調剤業務や服薬指導、薬剤管理など、さまざまな業務があるため、ひとつひとつの業務を効率的に進めなければ、別の業務にも支障をきたしてしまう可能性があります。
AIを活用することによって、クラウドで効率的に薬剤管理を行ったり、音声入力で薬歴入力を行うなど、業務の効率化が進みます。
AIの活用によってさまざまな業務を効率化・自動化することは、薬剤師一人ひとりの負担軽減につながります。
薬剤師の負担を軽減することで、「離職率の低下」にも繋がっていくことが期待されています。
デメリット
薬剤師の業務にAIを導入することはメリットがある一方で、デメリットもあります。
その一つがAIの業務代替による薬剤師の雇用の減少です。
これまで薬剤師が行っていた業務がAIに置き換えられることで、薬剤師の需要が減っていくと予想されています。
また、AIの導入には情報漏洩のリスクが伴います。
AIの活用にはネットワークを利用するため、個人情報や薬局運営に関する機密情報など、情報漏洩のリスクを最小限に抑える対策が必要です。
このほか、AI導入には初期費用や維持費がかかります。
そのため、AIの導入は慎重に進める必要があり、リスク管理とコスト対効果の両面から検討することが求められます。
AIの台頭で薬剤師はなくなるかどうか、結論としては、AIが台頭しても薬剤師はなくなりません。
なぜなら、AIが苦手な薬剤師業務があるためです。
その代表的なものでは、対人のコミュニケーションなどは薬剤師が有利な業務として挙げられます。
今後AIが薬剤師業務を代替したとしても、AIにできないことや薬剤師に求められることは多く、薬剤師はなくなりません。
ここでは、AIが苦手な業務、薬剤師として大切にしたいことについて解説しますので参考にしてください。
AIが苦手な薬剤師業務
AIが苦手とする業務には以下の例があります。
- 対人コミュニケーション
- 提供されない情報の推察
これらの業務は、対人コミュニケーションが必要な業務であり、はAIが苦手とする領域と言われています。
対人コミュニケーションが取れるチャット形式のAIでは、質問に対してAIが返答してくれるものが多くあります。
ただ、その返答は相手の質問の意図をくみ取れず、人とのコミュニケーションの質と比較するとひどく劣るものです。
服薬指導などでは、患者の様子や反応を見て適切なアドバイスをすることが求められるため、現時点ではAIでは対応が難しいと言われています。
薬剤師が有利な業務で大切にしたいこと
薬剤師が対人業務を行う際に重要なことは、患者との信頼関係を築くことです。
なぜなら、適切に薬を服用してもらうには、コミュニケーションが必要になるからです。
患者さまの気持ちに寄り添い、適切な声掛けをすることで信頼を得ることができます。
かかりつけ薬剤師として信頼されることは、患者さまの正しい服薬と健康維持につながります。
患者さまとのコミュニケーションを重視し、信頼される薬剤師としての役割を果たすことが重要です。
薬剤師がAIに代替されないためには、どうすればよいのでしょうか。
薬剤師としてやるべきこと4つのポイントを紹介します。
- コミュニケーション能力の向上
- マネジメント能力を身につける
- かかりつけ薬剤師を目指す
- 在宅医療も可能な薬剤師を目指す
①コミュニケーション能力の向上
AIによって薬剤師がなくならないためには、コミュニケーション能力の向上が重要です。
薬剤師は、患者様との対話を通じて薬の効果や副作用を説明し、適切な服薬指導を行う必要があります。
また、患者様の不安な気持ちに寄り添い、信頼関係を築くことが求められます。
AIは情報を提供することはできても、人間らしい温かみのあるコミュニケーションはできません。
人間としての強みを活かし、コミュニケーション能力を高めることが、AIに代替されない薬剤師となるための重要なポイントです。
②マネジメント能力を身につける
薬剤師に求められるもう一つの重要なスキルがマネジメント能力です。
特に、管理薬剤師として薬局全体の運営をおこなう場合、薬剤管理・スタッフの管理・業務の効率化など、幅広い知識と経験が必要になります。
データ処理ではAIが優れていますが、人材の管理や難しい対応が求められるマネジメント業務はAIは苦手としています。
マネジメント能力を身につけることで、AIに代替されない薬剤師としての立場を確立できるのでおすすめです。
③かかりつけ薬剤師を目指す
地域密着型のかかりつけ薬剤師として働くことも、AIに代替されにくい薬剤師となるための一つの方法です。
かかりつけ薬剤師は、患者様の健康状態や生活環境を総合的に把握し、個別のニーズに応じた服薬指導や健康相談を行います。
また、地域の医療機関や介護施設と連携し、包括的にサポートすることが求められます。
このような地域に根ざした活動は、AIでは対応が難しく、人間である薬剤師の役割が重要です。
④在宅医療も可能な薬剤師を目指す
在宅医療への対応も、AIに代替されにくい薬剤師となるための方法です。
なぜなら、在宅医療で行う個別対応はAIには難しく、薬剤師の専門性と人間性が強く求められる分野だからです。
例えば、在宅医療では、患者さまの自宅を訪問し、薬の管理や服薬指導を行います。
この業務は、患者様の生活環境や家族構成を考慮した上で、最適な医療サービスを提供することが求められます。
そのため、在宅医療への対応は、AIに代替されないために薬剤師が取り組みたい業務の一つです。
AIの導入によって、薬剤師の業務が効率化されていますが、薬剤師にしかできない仕事はたくさんあります。
薬剤師は将来性があり、これからも必要とされる職業です。
薬剤師は将来飽和すると予想されている
薬剤師の数は近年増加傾向にあり、将来的に飽和状態になると予想されています。
厚生労働省の薬剤師の需給予測によると、2018年以降は需要と供給のバランスが崩れ、少しづつ需要総数に対して供給総数が増え続けると予想されています。
具体的には、2045年時点では最大12万6000人の薬剤師が余ると予想されています。
薬剤師の有効求人倍率は他職種に比べて高い
薬剤師の有効求人倍率は他職種に比べて依然として高い水準を保っています。
2022年9月の厚生労働省の統計によると、「医師・薬剤師等」の有効求人倍率は2.00倍。
全職種の平均である1.20倍を大きく上回っています。
これは薬剤師の需要が依然として高いことを示しています。
薬剤師の数が増え続ける中で、この倍率は徐々に低下していくでしょう。
これまでのように多くの求人から選べる状況ではなくなりますが、他職種と比較すると、薬剤師の職を見つける可能性は依然として高いと言えます。
薬剤師の需給バランスが崩れていく傾向について解説しました。
では、薬剤師の職場によって違いがあるのか、職場別に求められる能力について詳しく解説します。
調剤薬局の薬剤師需要は充足しつつある
調剤薬局の薬剤師需要は、近年充足しつつある状況です。
その理由は、調剤薬局数の増加よりも薬剤師数の増加の方が早いためです。
これにより近年、薬剤師は調剤薬局へ就職・転職しづらくなってきています。
このような状況下で求められる薬剤師となるためには、調剤以外の強みが重要です。
質の高い服薬指導、かかりつけ薬剤師としてのスキル、在宅医療の知識など、患者さまのニーズに応えられる能力を身につけることが求められます。
病院薬剤師の需要は横ばい状態
病院薬剤師の需要は、横ばい状態が続いています。
病院の数に大きな変化がないため、新たな需要が生まれにくい状況です。
病院薬剤師求められることは、薬物療法の管理能力やチーム医療への貢献です。
専門的な薬理知識の習得はもちろん、医師や看護師と連携できるコミュニケーション能力が求められます。
ドラッグストア薬剤師の需要は高い
ドラッグストアの薬剤師需要は高い状態が続いています。
店舗数の増加に伴い、薬剤師の需要も高まっています。
ドラッグストアでは、病気の人だけでなく健康な人も訪れるため、セルフメディケーションのサポートが重要となります。
OTC医薬品や健康食品の知識、症状に合わせた薬の提案、誤った薬の使い方を防ぐための声掛けなど、幅広い対応が求められます。
予防医療への貢献を目指す薬剤師が今後も必要とされるでしょう。
薬剤師の将来性について「未来がない」と言う意見もありますが、将来にわたり市場価値の高い薬剤師となることは可能です。
薬剤師として将来生き残るためのコツは、以下の記事が詳しく解説していて参考になります。
薬剤師の将来性は未来がない?職場ごと需給予測と業務の変化から徹底解説!薬剤師の仕事はAIの台頭により変化していますが、全ての業務が代替されるわけではありません。
特に、対人コミュニケーションや服薬指導など、AIが苦手とする分野では薬剤師の役割が重要です。
薬剤師がAIに代替されないためには、コミュニケーション能力の向上、マネジメント能力の習得、かかりつけ薬剤師としてのスキルアップ、在宅医療への対応力強化が求められます。
職場別に見ると、調剤薬局の薬剤師需要は充足しつつあり、病院薬剤師の需要は横ばい、ドラッグストア薬剤師の需要は高い状態が続いています。
これらの状況を踏まえ、薬剤師はAIの活用を恐れず、自身の強みを活かし、患者さんに寄り添ったサービスを提供することが重要です。
AIに代替されないための4つのことを実践してみましょう。
また、場合によっては需要の高いドラッグストアへの転職を検討しても良いでしょう。