「かかりつけ薬剤師はおかしい」そう感じている薬剤師向けの記事です。
かかりつけ薬剤師制度は、理念に賛同はできても、実際に現場で働く薬剤師にとっては「おかしい」と感じる要素が多すぎるのが現実です。
本記事では、制度が抱える矛盾や無理のある要求を整理したうえで、かかりつけ薬剤師を回避する対処法を紹介します。
これから制度に巻き込まれそうな方、もうすでに負担に悩んでいる方、「自分を守りながら、患者とも誠実に向き合うための選択肢」が見つかるので、ぜひ読んでみてください。
目次 開く
- かかりつけ薬剤師とは?
- かかりつけ薬剤師が推進されている背景
- 厚生労働省『患者のための薬局ビジョン』がかかりつけ薬剤師の出発点
- 『患者のための薬局ビジョン』におけるかかりつけ薬局・薬剤師の具体的な機能
- 令和6年度診療報酬改定ではかかりつけ薬剤師の負担軽減
- かかりつけ薬剤師の現実的にはおかしい業務
- かかりつけ薬剤師がおかしい具体的な理由
- かかりつけ薬剤師はおかしいと思うかインタビュー
- かかりつけ薬剤師に将来性がある理由
- かかりつけ薬剤師をするメリット
- かかりつけ薬剤師をするデメリット
- かかりつけ薬剤師を避ける方法
- かかりつけ薬剤師を辞めたい場合
- かかりつけ薬剤師の同意書の記載事項
- かかりつけ薬剤師指導料の算定要件
- かかりつけ薬剤師指導料算定要件の改定
- まとめ
かかりつけ薬剤師とは?

かかりつけ薬剤師とは、患者さん一人ひとりの薬の情報をまとめて管理し、継続して薬学的な管理と指導を担う薬剤師のことです。2015年に示された『患者のための薬局ビジョン』により、かかりつけ機能を果たす薬局が制度として求められるようになりました。
しかし現場では、制度の理想と現実に大きなギャップがあり、負担を感じる薬剤師が少なくありません。たとえば営業時間外や休日でも患者さんの相談に対応しなければならず、プライベートとの線引きができていない点です。
かかりつけ薬剤師は薬剤師に大きな負担がかかる分、制度の背景を正しく理解し、自分の職場が制度以上の要求をしていないかを知ることが大切です。ここでは制度の基本から、現場で負担が生まれる構造までを整理して解説します。
かかりつけ薬剤師が推進されている背景

現在かかりつけ薬剤師が推進されている背景は、主に以下の政策や制度です。
- 『患者のための薬局ビジョン』厚生労働省
- かかりつけ薬剤師の診療報酬の改定
- 省令の「かかりつけ薬局の基本的機能」の明示
- 地域包括ケアシステムに薬局の役割としてのかかりつけ機能が明示
2015年に『患者のための薬局ビジョン』で明確に「かかりつけ薬局・薬剤師」の機能を国から求められるようになったことがはじまりです。
これを受けて、2016年に「かかりつけ薬剤師指導料/包括管理料」が新設され、かかりつけ機能を評価・誘導するよう現在も診療報酬制度の改定が続いています。
また、省令で「健康サポート薬局」の基準が整備され、その中にかかりつけ薬局の基本的機能が明示されたことも、かかりつけ薬剤師の推進要因です。
加えて『地域包括ケアシステムにおける薬剤師・薬局の役割』でも、かかりつけ薬局としての役割が明記されました。
これらの背景から、調剤薬局はかかりつけ薬剤師の機能を整備する必要に迫られているのが実態です。
厚生労働省『患者のための薬局ビジョン』がかかりつけ薬剤師の出発点

『患者のための薬局ビジョン』は、2015年に厚生労働省から出された政策ビジョンです。この政策では、薬局は調剤だけでなく、地域で患者さんの健康を守る拠点になることが求められています。
具体的には、薬局に3つの機能を整備し、薬局を地域包括ケアシステムの一部とすることが理想とされています。
ただし、この政策は現時点では現場の薬剤師にとって大きな負担になりがちです。現場の課題を正しく知り、対策を考える意識を持つようにしましょう。
薬局に求められるの3つの機能(かかりつけ機能・健康サポート機能・高度薬学管理機能)
『患者のための薬局ビジョン』の中には、薬局には以下3つの機能が明記されています。※『患者のための薬局ビジョン』(厚生労働省)
- かかりつけ機能
- 健康サポート機能
- 高度薬学管理機能
かかりつけ機能では、一人の薬剤師が患者さんの薬歴をまとめて管理し、24時間対応や在宅訪問も行うことも明記されています。
健康サポート機能は、市販薬や健康食品、食事・生活習慣に関する相談まで対応する役割。
高度薬学管理機能では、特定の病気や難治性疾患の患者さんに対して、医師と連携しながら高度な薬学的管理を行います。
『患者のための薬局ビジョン』におけるかかりつけ薬局・薬剤師の具体的な機能

『患者のための薬局ビジョン』に記載されるかかりつけ薬局・薬剤師の具体的な業務は以下のように記載されています。
- 服薬情報の一元的・継続的把握とそれに基づく薬学的管理・指導
- 24時間対応・在宅対応(令和6年度改定)
- 医療機関等との連携
つまり、患者の薬をすべて把握し、24時間・在宅も対応して、地域の関係医療機関と情報共有等の連携を行うということです。
服薬情報の一元的・継続的把握とそれに基づく薬学的管理・指導
服薬情報を一元的かつ継続的に把握することは、かかりつけ薬剤師の中核的な役割とされています。
厚生労働省が示す算定要件でも、かかりつけ薬剤師は患者さんごとに薬歴を適切に管理し、副作用防止や重複投薬の回避を徹底することが求められています。
ただし、現実的にこの一元管理をできる患者は限られます。他局での処方、薬歴ツールの非統一、OTC・サプリ等の非処方薬等があり、すべての医薬品の把握が難しいからです。
また、かかりつけ薬剤師の責任も重く、理想と現実には大きな乖離があります。
24時間対応・在宅対応(令和6年度診療報酬改定あり)
かかりつけ薬剤師は、必要に応じて24時間対応や在宅対応を行うことが厚生労働省の算定要件として定められています。これは患者さんの安心を守る大切な仕組みですが、その分、現場の薬剤師にとっては特に負担が大きい部分です。
特に負担が大きいのは、24時間対応かつ連絡先や勤務日まで患者に伝える必要があることです。女性薬剤師では、連絡先や勤務日を伝えることに不安を持つケースもあるでしょう。
制度としては地域包括ケアの一翼を担う意義がありますが、かかりつけ薬剤師の負担が大きく、職場での役割分担や相談体制を整えることが重要です。
令和6年度診療報酬改定では、かかりつけ薬剤師の休日・夜間の相談体制に関する見直しがありました。具体的には、「24時間相談」「勤務表を渡す」「連絡先を伝える」といった負担の大きい記載が削除され、かかりつけ薬剤師の負担が見直されています。また、かかりつけ薬剤師と連携する他の薬剤師についても「1名までの保険薬剤師に限る」の文言が削除され、かかりつけ薬剤師がやむを得ず対応できない場合は、薬局での対応も可となるよう変更がありました。
旧(令和4年度) | 新(令和6年度) |
---|---|
・24時間相談に応じる | ・休日、夜間を含む時間帯の相談に応じる |
・勤務表を作成して患者に渡す ・当該保険薬剤師の連絡先を患者に伝える | ・当該保険薬局における勤務日等の必要な情報を伝える |
・かかりつけ薬剤師と連携する他の薬剤師は1名までの保険薬剤師に限る | (削除) |
医療機関等との連携
かかりつけ薬剤師は、医療機関と連携して患者さんを支える責任があります。これは厚生労働省の指針でも定められており、薬局だけでなく病院やクリニックと情報を共有することで、処方内容の重複や副作用リスクを未然に防ぐことが目的です。
ただ、こうした連携が仕組みとして確立していない職場では、薬剤師一人に負担が集中しがちです。現場の負担を減らすためにも、連携を個人任せにせず、職場全体で医療機関との情報共有体制を作っておくことが必要です。
かかりつけ薬剤師の現実的にはおかしい業務

かかりつけ薬剤師の業務は、幅広く負担も大きいです。相談対応・在宅訪問・残薬管理など、時間外やプライベートに影響する業務も含まれます。
以下では代表的な業務内容を3つに絞って解説します。
①薬局の営業時間外でも相談に応じないといけない
かかりつけ薬剤師は、営業時間外でも患者さんからの相談に応じる役割があります。これは、夜間や休日に急な副作用や服薬ミスで、患者さんが不安を抱えるケースが少なくないためです。
例えば、「夜中に薬を飲み忘れたけれど、今から飲んでいいのか?」といった電話がかかってくることもあります。こうした対応が続くと、業務とプライベートの線引きが難しくなり、心身の負担が大きくなりがちです。
②処方薬以外にも市販薬、健康食品などの相談にも応じないといけない
かかりつけ薬剤師は、処方薬だけでなく市販薬や健康食品についても相談を受ける必要があります。これは、患者さんの重複投薬や副作用を防ぐために必要ですが、処方薬以外までを管理するのは実態として難しいです。
「サプリの飲み合わせ」「市販薬と処方薬の併用」など薬の申告があれば良いですが、かかりつけを利用している患者の多くは高齢者です。申告されない医薬品があるほか、飲んでいる薬を把握していないケースもあるため、処方薬以外の相談に応じるのは負担が大きくなりがちです。
③患者宅に余っている薬を管理しないといけない
残薬の管理は、かかりつけ薬剤師にとって大切な役割です。目的は、服薬アドヒアランス(飲み忘れの防止)を高め、無駄な処方を減らすことにあります。
具体的には、在宅患者さんの自宅を訪問して、どの薬が残っているかを確認するなど、医師に情報を伝えて処方内容を調整することが求められます。
ただし、訪問調整や患者さんの生活状況に合わせるのは簡単ではなく、薬剤師一人で抱え込むと負担が大きくなります。
かかりつけ薬剤師がおかしい具体的な理由

かかりつけ薬剤師制度は理想的には「患者の安心を支える制度」ですが、実際には現場で多くの無理や矛盾を生んでいます。
ここでは、特に薬剤師が「これはおかしい」と感じやすい5つの理由を解説します。
営業時間外対応が当たり前になる
かかりつけ薬剤師に求められる「営業時間対応」は現場では現実的ではない場合が多いです。
夜間や休日に突発的な連絡が入れば、プライベートの時間が奪われてしまうからです。
例えば、急に患者さんから「飲み合わせを確認したい」と夜間に連絡が入ると、対応しないわけにはいきません。特に一人暮らしの高齢患者さんでは夜間でも不安になりやすく、実際に何度も連絡が来ることがあります。
これが連続すると、薬剤師の疲労感は蓄積し、「ずっとオンコール状態」という負担になります。
制度の理想ばかりが先行し現場の整備が間に合っていないため、薬局や薬剤師の負担ばかりが大きいと感じる人が多いのが現実です。
実質ノルマのように契約を取らされる
かかりつけ薬剤師は本来、患者の自由意思で選ぶ制度です。しかし現場では「かかりつけ契約数を増やせ」とノルマのように上司からプレッシャーがかかるケースがあります。
例えば、調剤報酬の算定率が経営成績に影響するため、薬局側が「月〇件は必ず契約を取って」と目標設定してしまうのです。
その結果、本来は患者さんの理解や信頼を得て自然に選ばれるべき制度が、「とりあえず同意書を書いてもらおう」という形骸化した運用になることも。
薬剤師として患者のために働きたい気持ちが、営業目標のような数値管理に変わってしまうのは、働く薬剤師にとって心の負担にもなります。
患者さんとの相性トラブルが長期化しやすい
かかりつけ薬剤師制度では、1人の患者さんにつき1人のかかりつけ薬剤師しか選べません。この仕組みは、服薬情報の一元管理には有効ですが、人間関係にトラブルがあると問題がこじれやすくなります。
例えば、患者さんの性格や要望と相性が合わない場合でも、変更を希望しづらく、クレーム対応が続いて精神的に負担になることがあります。
さらに、患者さん側が「前の担当者に言ったのに」と過去のことを持ち出して責任を求められるケースもあります。
相性が合わない場合に柔軟に担当変更できないと、かかりつけ薬剤師のストレスは想像以上に大きくなります。
薬剤師個人には責任が重い
かかりつけ薬剤師は「個人の名前で患者さんを担当する」という点で、患者さんとの信頼関係を深める仕組みです。
しかし現実は、何かあったときの責任がすべて個人に集中しやすい側面があります。
例えば、在宅訪問中に残薬管理のミスが発覚したり、患者さんから「相談したのに説明が不十分だった」と言われれば、クレームの矢面に立つのは担当のかかりつけ薬剤師です。
調剤薬局全体でフォローする仕組みが機能しないと、個人に過剰な責任がのしかかり、離職につながる原因にもなります。
指導料に見合わない負担感
かかりつけ薬剤師指導料は、患者さんの自己負担は月数百円〜1,000円程度と小さいため、患者さんの理解を得にくいこともあります。
その一方で、薬剤師側は同意書の説明、患者情報の一元管理、営業時間外対応、在宅訪問など、多岐にわたる業務を担わなければなりません。
「数百円の指導料では割に合わない」と感じる薬剤師は多く、これが制度の形骸化を進める一因にもなっています。
このように、「理想」と「現実」のギャップがかかりつけ薬剤師制度を無理のある仕組みにしてしまっています。
かかりつけ薬剤師はおかしいと思うかインタビュー

ここでは、実際にかかりつけ業務を経験した薬剤師の声を紹介します。
結論として「理想と現実のギャップに悩む人は多い」です。
理由は、制度の趣旨自体は患者本位でも、現場の人員や負担感、ノルマの実態が現実に合っていないからです。
たとえば、「かかりつけの件数を取ることが評価につながるので、営業のような感覚になった」と話しています。
また、「患者さんの在宅訪問で休日対応が続き、家族との時間を確保できなくなった」という声もあります。
もちろん、中には「在宅医療の経験を積めて成長につながった」と前向きに捉えている人もいます。
このように、制度の活用度は職場環境や経営方針に左右される面が大きいです。
かかりつけ薬剤師に将来性がある理由

かかりつけ薬剤師には今後も一定の将来性があります。
理由は、国が進める地域包括ケアの中で「対物業務から対人業務へ」という薬剤師の役割転換が進んでいるからです。従来の調剤だけでは機械化が進み仕事が減る一方、患者さんに寄り添うかかりつけ薬剤師は今後も需要が高まると見られています。
地域に根差した信頼関係を築ける薬剤師の存在は、高齢化社会ではますます必要とされます。将来を見据えたとき、対人業務のスキルは自分のキャリアを広げる大きな強みになるので、概要だけでも確認しておきましょう。
対物業務から対人業務への薬剤師業務の変化
近年、薬剤師の仕事は調剤(対物)から服薬指導や在宅訪問(対人)へシフトしています。
その背景には、調剤機器の進化やオンライン服薬指導など、技術が人の代わりをする分野が増えているからです。
具体的には、AI調剤機器や自動分包機の導入で人が手を動かす業務はどんどん減っています。
一方で、患者さんの生活背景に合わせた服薬指導や、多剤併用の調整は薬剤師の専門性が問われる仕事で、今後より必要とされる業務です。
こうした変化に対応するために、かかりつけ薬剤師としての経験を積むことは意味があると言えるでしょう。
対物業務は人間でなくてもできる
調剤や在庫管理などの対物業務は今後ますます機械やシステムで代替可能です。これらは正確さとスピードが求められる作業で人間よりもAIや機械の方が得意な業務です。また、人件費を抑える意味でも自動化は今後も進むでしょう。
自動錠剤分包機や調剤ロボットはすでに大手薬局で当たり前になりつつあります。
一方で、患者の細かい状況を聞き取ってアドバイスする力は機械では補えません。
したがって、対物に依存した働き方は将来性が低く、対人スキルを伸ばすことが長期的に見ても重要です。
かかりつけ薬剤師をするメリット

かかりつけ薬剤師はおかしいと、負担ばかりが語られがちですが、実はキャリア面でのメリットもあります。
理由は、地域包括ケアや在宅医療の実績がつきやすく、他の薬剤師との差別化ができるからです。
患者さんからの信頼を得られた経験は、将来的に他業種への転職やキャリアアップの際にも大きな武器になります。
やりがいを得ながら専門性を高めたい人には、かかりつけ業務は一つの選択肢と言えるでしょう。
地域包括ケア・在宅医療の実績になる
かかりつけ薬剤師として活動すると、地域包括ケアの中心メンバーとして在宅医療に関わる機会が増えます。
これは、他の薬剤師と差をつける貴重な経験です。
例えば、患者さんの自宅に訪問して服薬管理をしたり、医師やケアマネと連携したチーム医療を学べます。
こうした実績は、将来的に病院薬剤師や行政職など他の道へ進む際の強みになります。
経験が他の薬剤師との差別化になる
かかりつけ薬剤師としての経験は、「地域医療に強い薬剤師」という評価につながります。他の薬剤師との差別化になり、転職市場でも一定の評価を受けやすいです。
患者さんとの関係構築や在宅対応のノウハウは一朝一夕では身につきません。忙しい中でもコツコツと積み重ねた経験は、どこへ行っても役立つ財産になります。
かかりつけ薬剤師をするデメリット

一方で、かかりつけ薬剤師を続けることで大きな負担がのしかかる点も忘れてはいけません。
特に大きな負担は、プライベートとの線引きが難しくなり、精神的にも肉体的にも疲弊しやすいからです。
「患者のため」という想いが強い人ほど、自己犠牲になりやすいので要注意です。
業務とプライベートの分離が難しくなる
夜間対応や休日訪問など、プライベートの時間に仕事が入り込むことが多いです。
「休みでも電話が鳴る」「気が休まらない」という声は珍しくありません。
家族の理解があっても負担感は残りやすく、結果的に心身の健康を損なうケースもあります。
業務負荷が増える
在宅訪問、服薬管理、患者対応など、通常業務に加えてやるべきことが増えます。
しかも、その多くは一人で抱え込む形になるため「サービス残業化しやすい」と言われています。
余裕のない職場では、ノルマ達成のために無理な件数を取らされるケースもあるので注意が必要です。
かかりつけ薬剤師を避ける方法

かかりつけ薬剤師の負担が大きすぎると感じるなら、できるだけ負担の少ない方法で避ける選択肢を知っておきましょう。
なぜなら、かかりつけ薬剤師制度自体が国の方針として続くため、自分の環境を変えなければ過重労働が続く恐れがあるからです。
職場によっては「かかりつけの件数目標」がゆるいところもあれば、そもそもかかりつけ算定を積極的に行わない薬局も存在します。また、病院薬剤師や企業薬剤師、治験関連職(CRO)など、かかりつけ薬剤師制度に縛られないキャリアを選ぶ方法もあります。
まずは今の職場で上司に相談し、業務量の調整が可能か確認するのが第一歩です。どうしても改善が難しい場合は、無理をせずに自分に合った職場へ転職することが根本的な解決策です。
根本解決は転職になる
現在の職場がどうしても「かかりつけノルマ」を強く求めるなら、転職して環境を変えるのが一番現実的です。
理由は、制度や職場の方針を変えることは難しく、結局は自分の体と心が犠牲になるケースが多いからです。
慢性期患者の病院薬剤師はかかりつけ制度もなく、外来業務や病棟業務に専念できるのでプライベートとの線引きがしやすくなります。また、企業薬剤師や治験コーディネーター(CRC)などは土日休み・定時勤務の求人も多く、夜間対応を迫られる心配がほとんどありません。
大切なのは「負担を減らして長く働き続けること」です。限界を感じる前に、今のキャリアを守るための一歩を考えてみてください。
その他の方法
「転職はすぐにできない」という人もいるでしょう。その場合は、今の職場でできるだけ負担を減らす対策を取ることが大切です。
具体的には、かかりつけ薬剤師の契約件数を最小限にする、契約のペースを上司と調整する、在宅訪問の件数を抑えるなどの工夫があります。
また、夜間・休日対応を一人で抱えずに複数人でシェアする方法を職場で提案してみるのも一つの手です。
さらに、信頼できる転職エージェントに今の状況を相談し、「すぐではなくても良いので、良い条件の求人が出たら教えてほしい」と情報収集を始めておくと心の余裕が生まれます。
かかりつけ薬剤師を辞めたい場合

どうしても「もう限界」と感じたときは、我慢を続けるのではなく、具体的な行動を取ってみることがおすすめです。
上司に相談する
まずは上司やエリアマネジャーなど、権限を持つ人に今の負担や不満を正直に伝えてみましょう。
実際に、契約件数を減らしてもらえたり、他の担当薬剤師と分担できたりするケースもあります。
一人で抱え込まずに職場内でできる改善策を模索することは、メンタルを守るためにも大切です。
転職も視野にキャリアプランを再考する
相談しても改善が見込めない場合は、無理に続けずに環境を変えることを考えましょう。
かかりつけ薬剤師を外れても、あなたの薬剤師としての価値がなくなるわけではありません。
むしろ、働きやすい環境に身を置くことで、本来の専門性を十分に発揮できるようになります。
将来を見据えたキャリアプランを改めて考え、自分に合う働き方を選び直すことが大切です。
かかりつけ薬剤師の同意書の記載事項

かかりつけ薬剤師になるには、患者さんの同意書が必要です。
理由は、国の制度として患者さんに選択権があるからで、薬剤師側から無理に契約を取ることは本来望ましくありません。
具体的な同意書の記載事項は、「夜間・休日対応」「在宅対応」「薬学的管理を行うこと」など、薬剤師が担う業務範囲が記載されています。
内容をきちんと説明しないままサインを求めると、患者さんの不信感を招く原因になります。記載事項を再度確認し、業務内容の確認と納得を得られるようにしましょう。
かかりつけ薬剤師にかかる費用
かかりつけ薬剤師を選ぶと、患者さんは「かかりつけ薬剤師指導料」を自己負担します。これは国が定めた保険点数に基づき算定され、一部を患者さんが支払う仕組みです。
例えば、かかりつけ薬剤師指導料は76点で、これに自己負担割合(1~3割)が適用されます。つまり、月に80円~240円ほどの負担になるのが一般的です(在宅など状況により異なります)。
薬剤師であれば誰でも選べるわけではない
かかりつけ薬剤師は、薬局にいる薬剤師なら誰でもなれるわけではありません。
厚生労働省が示す算定基準には、「薬剤師として3年以上の調剤業務経験があること」や「1週間の勤務時間が32時間以上であること」などの条件が含まれます。
例えば、短時間勤務のパート薬剤師や、店舗を兼任する薬剤師は、算定要件を満たせずかかりつけ薬剤師にはなれないケースがあります。
かかりつけ薬剤師は1人しか選べない(変更は可)
かかりつけ薬剤師は、患者さん1人につき1人だけ選ぶ仕組みです。1人のかかりつけ薬剤師となる理由は、薬の情報を一元管理して重複投薬や副作用を防ぐために、担当薬剤師を一本化する必要があるからです。
例えば、複数の薬局でそれぞれかかりつけを持つと、情報が分散して管理が不十分になり、健康被害のリスクが高まります。
ただし「担当薬剤師が辞めた」「人柄が合わなかった」などの場合には、患者さんの意思で他の薬剤師に変更することは可能です。逆に、薬剤師側が「業務負担が大きすぎる」と感じた場合でも、患者さんに相談して担当を変更する方法があります。
かかりつけ薬剤師指導料の算定要件
かかりつけ薬剤師指導料を取るには、一定の条件を満たす必要があります。
条件は2つあり、薬局の施設基準と薬剤師個人の基準の両方です。
施設基準
薬局自体が施設基準をクリアしていることが条件です。
これは例えば「調剤基本料1を算定できること」や「薬歴管理の体制が整っていること」が
求められます。
例えば、1カ月あたりの処方箋枚数が一定以上あることや、常勤の薬剤師が複数名いること、服薬指導の記録が適切に保存されているかなどが審査のポイントになります。
算定要件
かかりつけ薬剤師指導料を算定するには、薬局だけでなく薬剤師本人も要件を満たす必要があります。
具体的には以下のような条件です。
- 患者さんから書面で同意書を得ていること
- 夜間や休日でも対応できる対応体制が整っていること
- 必要に応じて在宅訪問に対応できること
例えば、患者さんが夜間に副作用を訴えた場合でも相談を受けられる体制を整えておかないと算定基準を満たしません。
こうした要件を満たさずに指導料を算定すると、監査で不適切と指摘されるリスクがあるので、日頃から条件を確認し、無理のない範囲で対応できるよう職場で仕組みを整えておくことが大切です。
かかりつけ薬剤師指導料算定要件の改定
令和6年度の診療報酬改定でかかりつけ薬剤師指導料の算定要件は見直されています。
具体的には、患者が「本当に必要」と納得して契約できるように同意書の説明義務がより厳格になりました。
また、同意の撤回手続きの案内なども義務化され、「知らないうちに契約されていた」という声を防ぐ仕組みが整備されています。
一方で、この改定で現場の事務負担は増えたと言えます。説明書の保存、同意撤回の手続き、患者への周知など、事務手続きが複雑化しており、現場では「本来の業務に集中しにくい」という声も上がっています。
つまり、制度の信頼性を高める方向ではあるものの、現場の負担が軽くなったわけではないのが現状です。
まとめ
かかりつけ薬剤師制度には、社会的に必要とされる役割がありますが、その一方で現場での負担や矛盾も多く存在しています。
制度のメリットとデメリットを理解しつつ、自分にとって無理のない働き方を見つけることが最も大切です。
我慢を続けて心身を壊す前に、上司に相談したり、条件の良い職場を探したりして、選択肢を増やしておきましょう。